ロブチェンで牡馬牝馬両方の三冠へ、杉山晴紀調教師が前人未到の快挙に挑む
ロブチェンで牡馬牝馬両方の三冠へ、杉山調教師が挑む

皐月賞、日本ダービーを制したロブチェンで目指す史上9頭目のクラシック三冠。杉山晴紀調教師(44)は「人生のターニングポイント」と位置づける最後の1冠、菊花賞(10月25日、京都競馬場)へ向け、これから最終調整に入っていく。

前人未到の快挙となる牡馬、牝馬での三冠達成に挑む一方で、少子化の波が押し寄せる競馬界の将来を憂う。「僕らの頑張る姿を見て、われわれに続く若者が競馬の世界に来てほしい」。事態を打開すべく先頭に立つ覚悟だ。

距離延長はプラス

あの感動から2カ月半が過ぎ去った。5月31日に東京競馬場(芝2400メートル)で行われた第93回日本ダービー。単勝2.7倍の1番人気に支持されたロブチェンはパントルナイーフとのたたき合いを頭差で制し、2023年に生まれた3歳馬7944頭の頂点に立った。

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クラシック三冠レース初戦の皐月賞(4月19日、中山芝2000メートル)では、好スタートから先手を取り、2番手につけたリアライズシリウスの追撃を振り切った。ゴール後に右後肢の落鉄が判明したが、勝ちタイムの1分56秒5は従来の記録を0秒1更新するコースレコードだった。

高速馬場を逃げ切った皐月賞。外枠スタートから中団で控える競馬に転じ、上がり3ハロン33秒2の強烈な末脚で差し切った日本ダービー。逃げ差し自在の脚質を見せつけたロブチェンの走りに、杉山さんは目を細める。

「デビュー2戦目でホープフルステークス(中山芝2000メートル、GⅠ)を勝った馬はロブチェンが初めてです。皐月賞とダービーを見ても、この馬は競馬のセンスにあふれているなと思いますね。血統的にも父親が長距離血統のワールドプレミアですから、間違いなく距離延長はプラスになります」

史上9頭目の偉業懸け

視線の先にあるのは10月25日に行われるクラシック最後の1冠、菊花賞(京都芝3000メートル)だ。ロブチェンが勝てば史上9頭目の牡馬三冠。デアリングタクトで2020年、牝馬3冠を達成しており、牡牝双方の三冠達成はJRA史上初の快挙となる。

「もちろん、こんなチャンスはめったにないことですからね。達成できればうれしいです」。そう話す一方で、気がかりな材料もある。「ロブチェンは筋肉がつきすぎて、馬体的に3000メートルはどうかというのはある。それに皐月賞とダービーは間隔が短かった。今度は4カ月あいていますので、その間の調整が大事になりますね。でも、めったにないチャンスですから」

この夏、北海道安平町のノーザンファームで激戦の疲れを癒やしているロブチェンは、今月下旬に栗東トレーニングセンター(滋賀県栗東市)に帰厩する。9月21日の神戸新聞杯(阪神芝2400メートル、GⅡ)をステップに菊花賞へ向かう予定だ。

競馬の世界を目指すきっかけとなったのは、ダンスインザダークが勝った1996年の菊花賞。念願をかなえて競馬界に足を踏み入れ、自らが調教を担当したスリーロールスがGⅠ初制覇を遂げたのは2009年の菊花賞だった。「僕にとって菊花賞は人生のターニングポイントになるレースです」。今度は史上9頭目のクラシック三冠を懸け、自身と縁の深い淀の3000メートルに管理馬を送り込む。

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若者が憧れる競馬界に

調教師となって10年。着実に実績を積み重ねた杉山さんには、競馬界を担うトップトレーナーとして使命がある。「18~19歳の頃、僕が勤めていた牧場に斉藤崇史先生がアルバイトに来て、そこから苦楽をともにしてきました。斉藤先生が調教師を目指していた影響を受け、僕も調教師試験に挑んだんです。当時、ともに勉強していた仲間はみんな調教師になった。お互いが刺激し合ってここまでやってきたんです。でも、今は競馬の世界に入ってこようという若者が少ない。なんとかわれわれの力で競馬界を盛り上げていきたいんです」

憂えているのは競馬界の深刻な人材不足だ。栗東トレセンでも厩舎スタッフの成り手が少なく、先細りが危惧される状況にある。自身を振り返れば、血縁関係にJRA関係者は一人もいなかった。「遠い親戚のおじさんに大井競馬場で働いている方がいたぐらいです」。しかし、ダンスインザダークの走りに感動し、武豊騎手の手綱さばきに憧れて縁もゆかりもない競馬の世界を志した。同じように情熱と勇気を持った若者に、競馬界の門をたたいてほしいと切に願っている。

「みんなで競馬界を盛り上げ、『あのレースを見たから』『あの馬に憧れたから』と言って、競馬界に入ってくれる人が増えたらうれしいですね。そのためにも、この世界とは全く関係のない若者が来てくれるような魅力的な馬を育てたいし、感動するレースをお見せしなければなりません」

30年前、「競馬の世界に進みたい」と打ち明けたとき、母のよし子さんは応援してくれたが、父の淳さんから「せめて高校だけは出てくれ」と言われ、神奈川・藤沢西高校に進学。高校を卒業してすぐに牧場に勤務し、今にいたっている。「父は3年ほど前に他界しました。昔は競馬のことを何も知らなかった母は、今では週末になると競馬中継を見ています。とても喜んでくれていますね」。杉山さんはそう話すと、頰を緩めた。

子供の頃に抱いた夢を追い、仲間と切磋琢磨しながらそれをかなえてきたホースマン人生。ロブチェンが記録にも記憶にも残るパフォーマンスを見せれば、胸を打たれた若者がきっと自分たちの後に続いてくれるはずだ。