俳優の身体接触をめぐる問題が、映画『先生の白い嘘』やフジテレビのドラマ撮影現場で相次いで顕在化している。主演の奈緒がインティマシーコーディネーター(IC)の導入を希望したにもかかわらず、監督側が第三者を入れず直接コミュニケーションで進める方法を選び、批判を浴びた。同様に、フジテレビのドラマ『夫婦別姓刑事』の車内撮影では、男性俳優が女性俳優の顔に触れた場面が問題視されたが、フジテレビ側はこれをセクハラとは評価していない。しかし、その後の男性俳優による楽屋訪問での発言が事態を深刻化させた。
『先生の白い嘘』での問題点
2024年公開の映画『先生の白い嘘』では、奈緒がICの導入を希望したが、監督側は「第三者を入れず、直接コミュニケーションで進める」方法を選択。制作側は女性スタッフを配置するなどの配慮をしていたと説明したが、批判を受けて認識の誤りを認め謝罪した。ここで問われたのは、監督や制作陣に悪意があったかどうかではない。「話し合えばわかる」「信頼関係があれば大丈夫」という従来型の現場感覚そのものが、現代ではもはや通用しなくなっているという点だ。
フジテレビドラマでのトラブル
フジテレビ側は、車内撮影での男性俳優による接触をセクハラとは評価していない。女性俳優側もその接触自体をセクハラとは受け止めていなかった。問題が深刻化したのは、その後の対応である。男性俳優が女性俳優の楽屋を訪れ、「身体接触に制約があるなら事前に言うべきだ」「夫婦役を受けるべきではない」「俳優を続けるべきではない」といった趣旨の発言をした。これは単なる「俳優としての助言」ではなく、相手の過去の経験や身体的境界にかかわる問題を、俳優としての資格や覚悟の問題にすり替えた点に問題があった。
インティマシーコーディネーターの役割
ICとは、ヌード、キス、性的接触、ベッドシーンなど、俳優の身体や性的表現にかかわる場面で、俳優の安全と演出意図の両方を調整する専門職である。脚本を読み、該当シーンを確認し、俳優の同意範囲を整理し、撮影時の動きや露出、接触の程度について相談する。ICは俳優を身体的・精神的に守りながら、監督の意図が最大限発揮できるように支える。日本では2020年頃から導入が始まり、徐々に認知が広がっている。
制作現場の古い美徳の限界
従来の日本映画・ドラマの現場では、「話し合えばわかる」「信頼関係があれば大丈夫」という暗黙の美徳が重視されてきた。しかし、俳優の身体的境界や過去のトラウマは、単なる話し合いでは解決できない問題である。ICのような第三者の介入がなければ、俳優は自分の限界を主張できず、結果として心的外傷を負うリスクがある。『先生の白い嘘』やフジテレビの事例は、こうした旧来の手法が限界を迎えたことを如実に示している。
今後の課題
ICの導入は進みつつあるが、まだ多くの制作現場で抵抗感がある。コストや制作期間の制約、あるいは「現場の空気を壊す」という懸念から、導入に消極的な制作陣も少なくない。しかし、俳優の安全と作品の質を両立するためには、ICのような専門家の存在が不可欠である。業界全体で意識を改革し、すべての俳優が安心して演技に集中できる環境を整えることが急務である。



