お笑いコンビ「オリエンタルラジオ」の中田敦彦さんと妻でタレントの福田萌さんが、約5年にわたるシンガポールでの生活を終え、日本に帰国した。このニュースに対し、SNSなどでは「節税目的だったのでは」「海外移住に失敗したのでは」といった批判や揶揄が相次いでいる。しかし、作家でお笑い評論家のラリー遠田氏は、こうした見方は「ズレている」と指摘する。
5年間のシンガポール生活の実態
中田夫妻は2021年頃からシンガポールに拠点を移し、3人の子供たちと共に現地で生活してきた。シンガポールは教育水準が高く、英語や中国語を含む多文化環境に触れられる点で魅力的な国だ。子供に国際感覚を持たせたい家庭にとって、価値のある環境であることは間違いない。
しかし、海外での子育ては単に英語が身につく、国際的な視野が広がるといった明るい面だけではない。子供が成長すれば、進学、国籍、永住権、将来の就職、日本語能力、日本の教育制度との接続など、様々な問題に直面する。
シンガポールの徴兵制が家族計画に影響
特に男児がいる家庭にとって、シンガポールの徴兵制は無視できない問題だ。シンガポールでは、男性の国民だけでなく、条件によっては男性の永住権保持者にも兵役義務が生じる。外国人家族がシンガポールに長く住み続け、子供の教育や将来の生活基盤まで考えるなら、永住権を取得するかどうかは重要な分岐点となる。しかし、男の子に永住権を取得させれば、将来的に徴兵義務の問題が出てくる。これは親にとって非常に重い判断である。
中田夫妻がこの点を帰国の理由として明言しているわけではない。ただ、家族で5年暮らした後に帰国を選んだことを考えると、子供が小さいうちに海外経験をさせる段階から、今後の教育と人生の基盤をどこに置くかを考える段階へ移った可能性は高い。シンガポールで暮らすことは刺激的で価値があるが、そこに本格的に根を下ろすには、税金や住みやすさだけでなく、子供の将来にかかわる制度的な現実まで引き受ける必要がある。
揶揄や嫉妬の対象となった帰国
今回の帰国が話題になったのは、海外移住という選択が、しばしば「日本からの脱出」や「成功者の到達点」として受け取られがちだからだ。芸能人が海外に移り住むと、節税のためだと揶揄されたり、「日本より上の環境を選んだ」と思われて、嫉妬の対象になったり、何かと批判されたりすることもある。
だから、そこから日本に戻るとなると、人々はすぐに「失敗したのか」「飽きたのか」「結局、日本が良かったのか」などと意味づけをしたがる。だが、3人の子供を持つ中田夫妻の場合、事態はもう少し複雑であると考えられる。
二者択一を超えた生き方の模索
福田萌さんは自身のインスタグラムで、日本かシンガポールかという二者択一の考え方をしなくなったという趣旨の投稿をしていた。この点についてはおそらく中田も同じ思いだろう。日本かシンガポールか、テレビかYouTubeか、芸人か教育者か、家庭人か表現者か。中田は世間から二者択一を押し付けられることを嫌い、その間を自由に行き来しながら自分なりの生き方を模索してきた。
5年の海外生活を経て日本に戻る彼は、自らの手でまた新しい物語を始めようとしているのだ。節税や移住失敗といった単純なレッテル貼りではなく、家族の将来を見据えた上での「実験の成果」として、この帰国を捉えるべきだろう。



