2026年5月31日、東京都文京区の文京シビックセンター小ホールにて、「小倉百人一首競技かるた 名人 vs クイーンドリームマッチ 2026」が開催された。競技かるた界の頂点に立つ男性選手「名人」と女性選手「クイーン」による夢の対戦は、2022年の開始以来5回目を迎え、今年も熱戦が繰り広げられた。
文京区が誇る「かるたの街」の取り組み
文京区は「競技かるた発祥の地」として知られ、全日本かるた協会の本部が置かれ、多くの全国大会が開催される重要な拠点だ。区は「かるたの街文京」の認知度向上を目指し、さまざまな事業を展開している。本イベントもその一環であり、文京区主催のもと、全日本かるた協会とNTT東日本が協働でライブ配信を実現した。
開会式と対戦前の緊張感
対戦に先立つ開会式には、第72期名人位の川瀬将義八段と第70期クイーン位の矢島聖蘭八段のほか、文京区長の成澤廣修氏、全日本かるた協会会長の松川英夫氏、同副会長の鶴谷博幸氏、読手の西田好幸専任読手、解説を務める自見壮二朗七段と並河辰樹六段が登壇。成澤区長や松川会長による挨拶の後、文京区の「かるた事業」の紹介が行われた。
札払いのデモンストレーションでは観客による写真撮影も許されたが、名人・クイーンが札暗記に入ると会場は静寂に包まれ、試合開始の瞬間を待った。
一進一退の攻防、運命戦へ
川瀬名人は今年1月に名人位を奪還し、2年ぶりの出場。矢島クイーンは昨年に続き登場。序盤からシーソーゲームが展開され、「渡り手」や「囲い手」などの技が披露された。後半に川瀬名人がラッシュを仕掛け、矢島クイーンのお手つきもあり勝負あったかと思われたが、矢島クイーンが追い上げる。川瀬名人のお手つきもあり、互いの残り札が1枚ずつの「運命戦」に。最後は、互いの好きな札「せをはやみ」が読み上げられ、矢島クイーンが1枚差で約1時間強の激戦を制した。
スペシャル座談会で振り返る
対戦後は、全日本かるた協会広報部の浜野希望七段の進行でスペシャル座談会が開催。今年初の試みとしてハイライト映像をスクリーンに映し出しながら、名人・クイーンの対戦中の思考や行動の意図が観客に伝えられた。
川瀬名人は「少し特定の札にこだわりすぎました」と苦笑し、互いの得意札「せをはやみ」にこだわった点を敗因に挙げた。矢島クイーンは「勝ててすごくうれしい」と笑顔を見せ、「これまでの対戦では分が悪かったので、ここで勝率を上げられてうれしい」と語った。
競技かるたの魅力と普及への思い
川瀬名人は「観客の方がたくさんいる中での試合は緊張するので難しい」と胸の内を明かし、「その中でどのようなパフォーマンスができるかが問われるイベント」と述べた。一方、矢島クイーンは「普通の大会では勝ちにこだわるが、ドリームマッチにはここでしか見られないかるたがある。カッコいい技を披露できる“魅せるかるた”ができる場」と魅力を語った。
ライブ配信について、川瀬名人は「慣れてきたので気にならなくなった」とし、自身が主催する「Karuta Club」でのYouTube発信の経験から「かるたとインターネットには親和性がある」と指摘。「声を出して応援できない競技だからこそ、配信のほうが適している部分もある。しかし、一画面にどれだけ情報を入れられるかが課題で、まだ研究されていない部分だからこそ、もっと面白くできると確信している」と今後の発展に期待を寄せた。
Instagramを開設するなど普及活動に力を入れる矢島クイーンは「今後はSNSをより積極的に活用する必要がある」と展望。「自分が主体となって普及活動を行う以上、自分自身も強くあり続けなければならない。より強くなりたい」と意気込みを語った。
イベントの意義と5年連続開催の背景
文京区は、イベントが5年連続で開催できた理由について、「名人とクイーンの白熱した戦いを間近で観戦できること」が好評であることに加え、同時配信で区内外に競技かるたの魅力を発信できる点を挙げる。また、競技かるたをきっかけに文京区の多様な魅力を発信し、地域文化の活性化に貢献したいとしている。
全日本かるた協会理事・企画部長の後藤いずみ氏は、「文京区様が定例行事として丁寧に準備し運営を続けてこられたこと」が5年連続開催につながったと評価。「“かるたの街文京”を大きく打ち出し、ドリームマッチ以外にもさまざまな大会を開催している点が大きい」と述べた。
競技かるたの魅力については、「老若男女を問わず同じ舞台に立てること」を挙げ、自身が小学生から競技を続けてきた経験から「これほど長く続けられる環境があり、競技として成り立っていることが一番の魅力」と語った。
配信の工夫と課題
配信の見どころについて、後藤氏は「速さだけでなく、作戦や技にも注目してほしい。配信では解説者が細かな部分まで触れるので、初心者にもわかりやすい」と話す。一方で、「マンガや映画を通じて競技かるたへの関心が高まっている今こそ、良い情報、正しい情報を適切に発信することが重要。配信も競技の実態にふさわしい形へ進化させる必要がある」と課題を挙げた。
配信を担当するNTT東日本のチームは、臨場感を伝えるためガンマイクを畳に近づける工夫や、一昨年からスローリプレイを導入。今年は札の配置画面を配信に投影し、視聴者の状況把握を改善した。
映像リーダーの赤坂輝来斗氏、音響チーフの薦田渉氏、プロジェクトマネージャーの中野空志郎氏は「できることが増えただけでなく、かるた協会様からの要望も取り入れながら、毎年新しい要素を加えようという思いが工夫につながっている」と振り返る。対戦後の座談会で活用されたリプレイ映像も、リハーサル中に急遽導入が決定したものだ。
ライブ配信のメリットとバランス
競技かるたのライブ配信のメリットは「試合会場では不可能な実況・解説を付けられること」だが、読手の声や札を払う音だけが響く緊張感も魅力。実況・解説を加えることで本来の臨場感とのバランスをどう取るかが課題だ。配信チームは「競技性を残しつつ、エンタメ性も追求している」と説明。視聴者からは「読手の声だけを聞きたい」といった要望もあるが、「ドリームマッチに関しては解説があってこそ」とし、イベントごとの独自性を出していきたいと語る。
内製化による効果と今後の展望
NTT東日本は昨年度から配信を内製化。東京東支店の高尾典明氏は「内製化前からスムーズな運営は実現できていたが、ノウハウが蓄積できたと自信を持てる状況となり、内製化に舵を切った」と説明。効果として「より細かなコミュニケーションが取れるようになり、急な対応でも短時間で判断や方針決定ができるようになった」と語る。
一方で「課題感はまだまだある」としつつ、「より実現できる部分を増やし、来年度以降も内製化の効果をエンタメ面で追求したい」と展望。また、「低遅延の回線を使った配信など、弊社の得意分野を生かしながら視聴者に新たなサービスを提供したい。来年度はさらに進化した配信を届けたい」と意欲を示した。
さらに、「競技かるたに限らず、文京区様が手掛ける文化事業に対して、幅広くお手伝いできる体制を作っていきたい」と語った。



