「教わると、そこが到達点になる」金箔支える和紙工房継いだ男の流儀
金箔支える和紙工房継いだ男の流儀

日本でただ1軒、金箔を支える手漉和紙工房がある。石川県金沢市の「上田手漉和紙工場」だ。7代目・上田康正さん(59)は、29歳で家業を継いだ。父は一切仕事を教えなかった。教えるどころか、「背中を見て覚えろ」の一点張りだった。

「職人技なので、口では説明できないと言われました。父のやり方をまねしながら、まずは自分でやってみるしかないんです」と上田さんは振り返る。

父はなぜ技を伝えなかったのか

上田さんの父親は、息子が家業を継ぐことを切望していた。それなのに、仕事を一切教えなかった。その理由を、上田さんはこう解釈する。「教わると、そこが到達点になる。自分でつまずくから、やっとわかる。それが職人技だと理解しました」

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はたから見ると、父と同じように紙を漉いているように見える。しかし、自分でやると難しい。和紙の厚さが均一にならない。力の入れ具合、ゆすり具合、どれ一つもうまくいかない。父のまねをして、やっとうまくできるようになった。しかし、1日中、同じ品質の和紙を漉き続けなければならない。自分なりのやり方でないと持続できないのだ。

ベンガラ染めの試行錯誤

最近では、ベンガラという顔料を入れた色付きの和紙も作っている。最初、原料にベンガラを入れてもなかなかきれいに染まらなかった。なぜかわからないまま、試行錯誤を繰り返した。あるとき、定着剤を入れる温度が重要だと気づいた。

「誰かに教えてもらえば、すぐにわかることだと思います。でも、自分でつまずいて、何度も繰り返しやってみるからこそ、体に感覚が染み付くんです」と上田さんは語る。

35年経っても「未完成」

和紙を作り続けて35年。上田さんは、まだ「未完成」だという。「私が目指している和紙づくりには、まだ到達していません。難しいのは、一枚の和紙を、偏りなく均等な厚さで漉くこと。1日中、均等な厚さで漉き続けられることが目標です」

金箔の下敷きとなる箔合紙は、厚さ0.03ミリという薄さ。上田さんの妻・裕子さんが、手際よく1枚1枚剥がしていく。裕子さんは結婚以来ずっと家業を支え、今も陰で支え続けている。

「できることをやっていくだけ」と上田さんは静かに語る。日本にたった1軒の金箔を支える和紙工房。その伝統は、教えずして伝えるという職人の流儀で守られている。

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