台風25号が関東地方を直撃する中、春風亭一花(いちはな)の真打ち昇進披露興行初日が満員御礼となった。異例のスピード出世を果たした一花の、令和落語史に刻まれる一夜を報告する。
14年ぶりの抜てき単独昇進、NHK新人落語大賞受賞の実力
落語協会で抜てきによる単独昇進は、兄弟子の春風亭一之輔以来、14年ぶり。3年連続でNHK新人落語大賞の本選に進み、昨年、三度目の正直で栄冠を手にした。いつまでも聴いていたくなる澄んだ声と、心地よいリズムとメロディーで落語を素直に語れる技量を併せ持つ。
お祝いの席らしく、曲独楽(きょくごま)の三増紋之助、漫才のすず風にゃん子・金魚ら、明るい芸風の出演者がそろう。中入りで一花の師匠、春風亭一朝がこれぞ江戸前と言うべき「目黒のさんま」を軽やかに聴かせた。
口上で見せた誠実な歩み、日替わりゲストに上方の若手も
後半の「口上」が見ものだった。司会の柳家三三(さんざ)から「どうしても応援したくなる人柄があります」と紹介され、師匠や大先輩たちの激励を耳にしながら、一花はうれしそうに目を細めたり、うるませたり。多彩な表情の変化から、落語家として誠実に歩んできた十数年の道のりが透けて見えるようだった。
日替わりゲスト枠があり、この日は上方の若手、桂九ノ一。「たらちね」で言葉の丁寧な新妻と八百屋のやりとりに秀逸な工夫があり、才気を感じさせた。
「粗忽の釘」で手ぬぐい忘れのハプニング、裏方のファインプレー
万雷の拍手を浴びて登場した一花は「粗忽(そこつ)の釘(くぎ)」。大師匠・先代春風亭柳朝の得意ネタで、一花や一之輔らが受け継いだ、愛すべき夫婦の滑稽噺(ばなし)だ。
粗忽者(そそっかしい人)の大工が主人公なのだが、何と一花、落語家の必須アイテム、手ぬぐいを懐に入れ忘れていた。それが判明するとすかさず楽屋から手ぬぐいがポーンと投げ込まれ、一花の手元に届く裏方のファインプレーが見られた。
一花は、何食わぬ顔で「まあね、お前さんは落ち着けば一人前」。噺の中で普通に出てくるせりふなのだが、状況が状況だけに観客は沸きに沸いた。
落語の登場人物と語り手の人柄がぴったりと合った時、感動にも似た笑いが生まれる。五代目柳家小さんは「芸は人なり」と言ったが、その体現者を目の当たりにした。
披露興行は今月以降、新宿末広亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場などを巡演する。