裾野・須山地区にアトリエ、中西伶さん32歳 プリントと筆で「希望」描く
裾野・須山にアトリエ 中西伶さん32 プリントと筆で希望描く

裾野市須山地区の高原にアトリエを構え、木々に囲まれながら芸術に没頭する若きアーティストがいる。中西伶さん(32)は、プリントと油絵の具を組み合わせた独自の技法で「大量消費社会に生きる人間の生命力」を表現している。

唯一無二の技法をニューヨークで習得

中西さんは特殊なプリンターで人工的な模様を印刷し、その上に油絵の具を塗り重ねる。複雑な色合いで表現された作品「FLOWER OF LIFE」は、花のようにも、炎のようにも見える。人工的な模様の上に、筆で描かれた自然な模様が重なり、独特なコントラストが醸し出されている。

これまでのアーティスト人生では、東京の3年間で人工的なグラフィックデザイン、ニューヨークの3年間で手描きの技術を身につけた。

原点は渋谷のシェアハウスでの貧乏生活

原点は、東京・渋谷にあるシェアハウスでの貧乏生活だ。美術大学を目指して浪人していたが、「早く現場で働きたい」という衝動を抑えられなくなった。パソコンでCDジャケットや洋服をデザインしながら、グラフィックデザインの技術を身につけた。「人脈が広がり、デザインの仕事はだいたいこなせるようになった」と振り返る。

「もう一つ、自分を新しくしたい」――。そう思い始めた頃、SNSで投稿していた作品に「いいね」をもらった。ニューヨークで活動する現代アーティスト・山口歴さん(42)からだった。「ニューヨークに行けば、自分の可能性を広げられる」と直感。SNS上で山口さんに思いを伝え、とんとん拍子で弟子入りが決まった。

手描きの「生々しさ」と組み合わせる

2016年に単身渡米し、山口さんと感性をぶつけ合う日々が始まった。「絵としてインパクトが強い最上級のものは何か」「芸術とは……」と議論が尽きることはなかった。「なぜ、キャンバスに描かなければならないのか」「段ボールに油絵の具を載せただけのパレットですら芸術ではないか」と自問した。「これまでの発想の枠組みを超える学びがあった」と語る。

そこで知ったのが、手描きの筆致から生まれる「生々しさ」だった。パソコンでグラフィックデザインを制作するのは得意だったが、山口さんの絵画の「生きている感じ」は「自分にないもの」だった。同時に、自身のグラフィックデザインと手描きが組み合わされば、唯一無二の技法になるのではないか――。試作品を師匠に見せたところ「めっちゃ良いじゃん」と認めてもらえた。

静岡で描く「人間の希望」

3年間の修業を終え、19年に帰国した。静岡で描いているのは、お金を稼ぐためのアートではない。絵画の中には、絵の具に含まれる粒子レベルのグラデーションが表れており、「あらゆる人の価値観」が映し出されている。情報過多でめまぐるしく変わる現代社会。そこでたくましく生きる「人間の希望」を、プリントと手描きの組み合わせに託している。

キャンバスは、「その時代に生きる人の気持ちを映す鏡」。10年、100年を超えて誰かが絵を目にした時、「この時代に希望を残そうとした人がいたというメッセージが伝われば良い」と中西さんは願う。

中西さんは三重県出身。2021年から銀座蔦屋書店(東京都)などで個展を開催している。得意のグラフィックデザインは、「ユニクロ」のTシャツや「ルイ・ヴィトン」の店舗の内装に採用されたこともある。創作中は音さを鳴らし、透き通る音を聞いて集中する。息抜きの際にはサウナで汗を流す。