2024年3月に延伸開業した北陸新幹線の終着駅・敦賀駅。その在来線ホームの片隅から発車し、京都府舞鶴市まで若狭湾沿いを走るのが、JR小浜線です。サバの模様とカラーをイメージした独特なデザインの「サバ号」に乗って約1時間、現在とある物語の舞台として話題の小浜市に到着しました。
月9ドラマ『サバ缶、宇宙へ行く』がもたらした聖地巡礼ブーム
その物語とは、6月22日に最終回を迎える、ドラマ『サバ缶、宇宙へ行く』。フジテレビの「月9」枠で学園ドラマが放送されるのは『大切なことはすべて君が教えてくれた』(11年1月期)以来、実に15年ぶりということで、話題を集めました。
福井県南西部の若狭地域にある、とある水産高校の生徒たちが、世代を超え、14年かけて「宇宙食開発」という大きな夢に挑戦したという「奇跡のような実話」。その夢へと導いた教師と地元出身のライターが執筆した書籍『さばの缶づめ、宇宙へいく』(22年)を原案としたオリジナル・ストーリーです。
このストーリーのカギになるのが、長い年月をかけて「夢」と「経験知」を、世代を超えてつないできた高校生たちと、北村匠海さん演じる新米教師・朝野峻一が温かく伴走するという、心地よい関係性。先輩たちから意志を引き継ぎながら「決して諦めない」生徒たちの姿勢は多くの共感を呼び、筆者も毎週元気をもらっています。
敦賀から1時間の壁——観光客流入の課題
小浜市は、北陸新幹線の敦賀駅から在来線で約1時間という立地にあります。この「敦賀から1時間」の壁が、観光客の流入を制限する要因の一つとなっています。新幹線で敦賀まで来ても、そこから先のアクセスが不便であるため、小浜まで足を伸ばす観光客は限定的です。
ロケ地研究家でコンテンツツーリズム研究家の古関和典氏は、「ドラマの効果で小浜への関心は高まっているが、実際の観光客数に結びつけるには交通アクセスの改善が不可欠」と指摘します。特に、ドラマの聖地巡礼で訪れるファンは、時間的制約が大きいため、移動時間の短縮が重要な課題です。
「宇宙鯖缶」が象徴する地域資源の活用
ドラマの題材にもなった「若狭宇宙鯖缶」は、小浜市の水産高校の生徒たちが開発した実在の商品です。この鯖缶は、実際に宇宙食として認証されており、地元の特産品として注目を集めています。古関氏は「宇宙鯖缶は、単なるドラマの小道具ではなく、地域の産業と教育が連携した成果物。これを観光資源として活用することで、持続可能な観光につなげられる」と評価します。
実際に宇宙鯖缶を食べた古関氏は、「サバの旨味が凝縮されており、缶詰とは思えないほど美味しい。ドラマを見たファンが実際に味わいたいと思うのは当然」と感想を述べています。
「わかすい」のモデルとなった専門高校
ドラマに登場する「若狭水産高校(通称:わかすい)」のモデルは、実在する福井県立若狭高等学校の水産科です。この高校は、長年にわたり水産技術の研究と教育に取り組み、宇宙食開発プロジェクトもその一環として行われました。同校の取り組みは、地域の水産業を支える人材育成にも貢献しており、ドラマの聖地としても注目されています。
観光持続化への光明——鯖街道と新幹線延伸
小浜市の観光持続化の鍵として、古関氏は「鯖街道」の活用を挙げます。鯖街道は、若狭湾で獲れたサバを京都まで運んだ歴史的な交易路で、現在はハイキングコースやサイクリングロードとして整備されています。ドラマのストーリーとも結びつけやすく、地域の歴史と食文化を体験できるコンテンツとして価値が高いといいます。
さらに、北陸新幹線の延伸計画が進めば、小浜までのアクセスが大幅に改善される可能性があります。古関氏は「新幹線が小浜まで延伸されれば、敦賀から1時間の壁は解消され、観光客の大幅な増加が見込める」と期待を寄せます。ただし、延伸の実現には時間がかかるため、それまでの間は在来線の利便性向上や、バス・タクシーとの連携強化が求められます。
ドラマ『サバ缶、宇宙へ行く』は、小浜市に新たな観光の波をもたらしましたが、その波を持続可能なものにするには、交通アクセスの改善と地域資源の効果的な活用が不可欠です。鯖街道や宇宙鯖缶といったコンテンツを核に、地域全体で観光振興に取り組む姿勢が、今後の光明となるでしょう。



