西川美和監督『わたしの知らない子どもたち』トロント映画祭で世界初上映、小八重葵美が英語であいさつ
西川美和監督『わたしの知らない子どもたち』トロントで世界初上映

西川美和監督のオリジナル最新作『わたしの知らない子どもたち』(10月16日公開)が現地時間10日、カナダで開催中の「第51回トロント国際映画祭」でワールドプレミア上映された。西川監督と、本作で映画初主演を果たした小八重葵美がレッドカーペットと舞台あいさつに登壇した。

日本映画初の快挙、プラットフォーム部門オープニング

本作は、トロント国際映画祭で唯一のコンペティションとなるプラットフォーム部門に選出され、同部門のオープニング作品として上映された。日本映画がプラットフォーム部門のオープニングを飾るのは初めて。

上映前の舞台あいさつでは、映画祭のプログラマーが「オープニング作品として、この作品を上映できることを大変うれしく思います。今回初主演を務めたアミにとって、初めての映画祭となります」と紹介し、西川監督と小八重を迎え入れた。

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10年ぶりの現地参加、監督が喜びを語る

西川監督が現地参加するのは、『永い言い訳』がスペシャル・プレゼンテーション部門に招待された2016年以来、10年ぶり。前作『すばらしき世界』も2020年に同部門へ選出されたが、コロナ禍のためオンラインでの参加となった。

当時、東京から画面越しに見た客席はまばらだったものの、観客から寄せられた熱心で鋭い質問が記憶に残っているという。西川監督は「それから6年がたち、ようやく新作を携えて、こうしてトロントに戻ってくることができました。本当にうれしく思っています。この作品を選んでくださった映画祭の皆さんに、心から感謝申し上げます」と喜びを語った。

小八重葵美、初の海外で英語の自己紹介

一方、小八重にとっては、初の海外渡航にして初の国際映画祭。自身初となる舞台あいさつで、「Hello, I’m Ami. I played Kotoko in this film. Thank you!(こんにちは、葵美です。この映画で琴子を演じました。ありがとうございます)」と英語で自己紹介し、照れながらも笑顔を見せた。

本作の企画が動き始めたのは、世界がコロナ禍からの回復という課題に直面していた2020年春。その後、2022年にはロシアによるウクライナ侵攻が始まり、各地で武力衝突が相次いだ。

西川監督は、そうした世界情勢を「まるで世界が逆行しているように感じた」と振り返り、「今、世界中で、この映画に登場する子どもたちと同じような境遇に置かれる子どもが増えています。これ以上、どこであっても、子どもたちをこのような状況に置いてはならない。その思いを、この映画からのメッセージとして、皆さんの心に持ち帰っていただければと思います」と呼びかけた。

最後に小八重が、「素晴らしいシーンがたくさんあり、きっとさまざまな感情が湧き上がる作品です。ぜひ、たくさん泣いてください!」と力いっぱいにアピール。会場が和やかな空気と大きな拍手に包まれるなか、上映がスタートした。

上映後のQ&Aで制作の裏側を明かす

上映後には西川監督が再び登壇し、観客とのQ&Aに参加した。脚本を書く前に小説を執筆した理由を尋ねられると、自身も作品で扱う時代の歴史について知らないことが多く、さまざまな資料を調べるところから制作を始めたと説明。「映画の脚本にする前に、登場人物それぞれの背景や、当時どのような出来事が起きていたのかを、自分の中できちんと整理する必要がありました。そのため、最初に小説を書き始めました」と明かした。

中でも、登場人物の一人である将吉についても、空襲に遭う前にどのような家庭や家族関係の中で暮らしていたのかなど、映画では描き切れなかった背景を小説では詳しく記したという。

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小説だからこそ描けたものについては、「映画の中では多くを語らない人物にも、たくさんのことを語らせられる点にあると思います」と回答。本作には子どもが数多く登場するが、映画では一人ひとりに長いせりふがあるわけではないため、小説では彼らの胸の内を言葉にし、それぞれの心情や物語を描いたという。

戦後の貧困と困難のなかを生きる子どもたちの描写について、ヴィットリオ・デ・シーカ監督の『靴みがき』をはじめとするイタリアン・ネオリアリズムからの影響を問われる場面もあった。

西川監督は「『靴みがき』は、まさに戦後のイタリアを舞台にした作品です。そこでも、子どもたちが同じような道具を使い、進駐軍の兵士たちの靴を磨いています。日本とイタリアという遠く離れた国でありながら、戦災孤児たちが置かれていた状況は、本当によく似ていると思います」と返答。

日本映画では小津安二郎監督の『長屋紳士録』を挙げ、「終戦直後に作られた古い映画には、戦災孤児が登場する作品がいくつかあります。しかし近年では、このテーマを扱った作品はあまり見当たらなくなっているように思います」と語った。

小八重を主人公・琴子役に抜てきした決め手については、「葵美ちゃんのきらきらと輝く瞳と、何か強い意志を胸の奥に秘めているような存在感が、その場にいたスタッフ全員の心をつかみました」と回想。オーディションで披露した歌声も決め手になったといい、「本当に抜群に素晴らしく、とても素敵な声でした。完璧な子守歌を聴かせてくれました」と称賛した。

海外の観客の反応に驚き、サインや写真撮影に応じる

海外の観客の反応を初めて体験した小八重は、「自分でも意外なところで笑っている人たちがいて、びっくりしました」と、新鮮な驚きを口にした。上映後も西川監督と小八重のもとには、サインや写真撮影を求める観客が次々と詰めかけていた。

観客からは「本当に心に響く映画。過去を描いた作品でありながら、物語全体が今の時代にも非常に通じる」「子どもたちの表情や感情が、カメラを突き抜けてくるような力がある」といった感想が寄せられた。