俳優の森七菜が、映画『藁にもすがる獣たち』(公開中)で、これまでのイメージを覆す謎めいた“悪女”を演じている。神出鬼没で金至上主義。ためらいなく悪事を重ねる“し〜な”を、森はどのように作り上げたのか。
本作は、江戸川乱歩賞作家・曽根圭介の同名小説を映画化。偶然見つかった1億円を巡り、出会うはずのなかった人物たちが複雑に絡み合い、金に取りつかれた“獣”へと変貌していく。
主演は鈴鹿央士。『名無し』などの城定秀夫監督がメガホンを取り、「岸辺露伴は動かない」シリーズの小林靖子が脚本を手がけた。
“悪事のスタンプラリー”と語る役作り
森が演じるし〜なは、チャンネル登録者数“2ケタ”の弱小大学生YouTuber・佐藤寛治(鈴鹿)や、不良警官・江波戸良介(成宮寛貴)と、1億円を巡る争奪戦を繰り広げる。なかでも、し〜なは出会う者たちを次々と翻弄。森自身も、これまで経験したことのない役柄に挑んだ。
「これは大変だぞと思う一方で、面白そうだなと思いながら撮影に入りました。埋める、絞める、撃つと、やったことのない悪さを次々と経験して、悪事のスタンプラリーのスタンプがどんどん埋まっていくような感覚でした」
現実ではできないことを芝居で経験し、森は改めて俳優という仕事の面白さを感じたという。「この仕事をしていなければ、なかなか経験できないことばかり。何にでもなれるんだな、やっぱり楽しい仕事だなと思いました」
曽根の原作は韓国でも映画化されている。韓国版も鑑賞した森は、し〜なを演じるにあたり、「あまり詮索しすぎない方が、うまく役に入れそうだと思った」と振り返る。
「無関心」が生む底知れなさ
劇中では、し〜ながなぜ金を欲しがり、なぜ悪事を繰り返すのか、その理由や過去はほとんど示されない。森も役の背景を掘り下げず、あえて理解しようとしないことで、得体の知れない不気味さを表現した。
「し〜なには、悪いことをしているという罪悪感がない。なぜこんなことをする人になったのかも、あまり考えないようにしました」
自分自身にも、自分が引き起こしたことの重大さにも関心がない。その「無関心」が、し〜なという人物の底知れなさにつながっている。
衣装とメイクは「仮装」、監督の演出に身を委ねる
普段の森とは大きく異なる、夜の気配をまとったビジュアルも、し〜なを形作る大きな要素になった。
「仮装をしているような感覚でした。普段の自分とはまったく違いますし、衣装合わせで実際に着てみて、監督が想像するし〜なはこんな感じなんだと、すごくよくわかりました。メイクや衣装の力は大きかったです」
し〜なのキャラクター像は監督の中ではっきりと出来上がっていたため、今回は城定監督の演出に身を委ねた。ナイフや拳銃を扱う場面では、画面上で印象的に見える角度まで細かく演出されたという。
「監督が自分のボスみたいな感じでした。『こういう悪いことをしてください』と言われて、『やってきます』みたいな(笑)」
土を掘り、バイクに乗り、真夏の撮影だったこともあり、「暑くてたまらなかった」と森。時間のかかる撮影が多かった一方、現場は非常にスピーディーで、スタッフのチームワークにも助けられたという。
ラストは「想像の100倍」、デビュー10周年の現在地
複数の登場人物の物語が交錯し、目まぐるしく展開していく本作。完成作を見た森は、「ちょっと一回休ませて、と思うくらい展開が早い」と、その勢いを表現する。
「自分が高校生の時に映画館で上映されていたら、友達を全員連れて観に行ったと思います。ドーパミンが出るような見方ができて、ジェットコースターに乗っている感じでした」
なかでも驚かされたのが、登場人物たちの運命が収束していく終盤。「台本で読んで知っていたはずなのですが、想像の100倍ぐらい、とんでもないことになっていました。最初の試写で観たときは、楽しすぎて笑いが止まらなかったです」
一方、自身の出演シーンについては、「期待に応えられたかな、と反省点ばかりを探してしまう」と森。「格好良い見せ方になっているかどうかまでは、まだ落ち着いて観れていないので、観に来てくれる友達に聞いてみようと思います」と笑った。
今年、デビュー10周年を迎えた森。近年は『国宝』やドラマ『ひらやすみ』、主演映画『炎上』など、作品ごとに異なる顔を見せてきた。今回のし〜なも、俳優として新たな一面を見せる役となった。ただ、自身では「幅を広げよう」と意識して仕事を選んでいるわけではないという。
「自分の中では、これまで演じてきた役は全部違うんです。文字にすると似ている役や、同じ境遇の人物もいるかもしれませんが、癖も違えば、瞬発的に出てくる言葉も違う。周りから『幅』と言ってもらって、そうか、これが幅になるのかと気づきました」
今後挑戦したい役についても、特定のイメージは持っていない。まだ出会っていない人物すべてに対して、フラットでありたいと考えている。「突き詰めれば、やってみたいものもあるのかもしれません。でも、いまは見つけようと思っていなくて。何でもやらせてください、頑張ります、という感じです」
最後に森は、本作の予測不能な魅力をこう表現した。「思っているよりも高いところへ連れて行かれて、低いところまで落とされます。それが、気持ちいい映画です。ぜひ観に来てください」