元検察官が映画『冤罪のつくりかた』の冤罪描写を解説「全くあり得ない」とは言えない
元検察官が映画『冤罪のつくりかた』の冤罪描写を解説

捜査で立てた仮説と矛盾する証拠が見つかったとき、捜査する側は見立てを変えられるのか。加藤夏希主演の映画『冤罪のつくりかた』で法務監修を担当した元検察官の澤田雄介弁護士と、泊誠也監督による特別インタビュー対談が公開された。澤田氏は、冤罪が起きる要因や、劇中の捜査・取り調べ描写と実務との関係について解説している。

冤罪が起きる二つのパターン

本作は、IR事業をめぐる汚職事件で有罪となった元衆議院議員・あきもと司氏が、自身の無罪を訴える手記『事実無根 私はこうして特捜に嵌められた』(徳間書店)を原案とする社会派サスペンス。“冤罪をつくる側”に視点を置き、新人検察事務官が組織の闇に直面する姿を描く。

加藤が演じるのは、証拠捏造もいとわない特捜部のエース検事・如月美麗。その部下となる新人検察事務官・早乙女直樹役を、ダンス&ボーカルグループ・BUDDiiSのリーダー、小川史記が務める。罪を着せられる衆議院議員・塚本明役に原田龍二、新聞記者・神崎ゴウ役にやべきょうすけが出演し、実際に冤罪疑惑を経験した実業家・堀江貴文も本人役で特別出演する。

澤田弁護士は、検察官として東京、福岡、横浜の各地方検察庁で事件を担当し、東京地検特捜部の事件にも応援として参加した経験を持つ。本作では検察実務や取り調べの描写を監修。あきもと氏とは利害関係がなく、同氏の立場を擁護するためではなく、専門家の視点から監修に携わった。

確証バイアスと捜査の危うさ

対談で澤田氏は、冤罪が発生する要因を「大きく分けると、二つのパターンがあります。一つは、思い込みや判断ミスといったヒューマンエラー。もう一つは、半ば意図的なものと評価され得るものです」と説明する。

捜査では、事件の全容が分からない段階で「こういう流れだったのではないか」と仮説を立て、証拠を集めて確かめていく。その過程で重要なのは、仮説が正しければ存在するはずの証拠があるか、逆に、その仮説では説明できない証拠が出てきていないかを検討することだという。

「捜査の段階で『こういう流れだったのではないか』と仮説(ストーリー)を立てること自体は必要です。しかし、その仮説と矛盾する証拠が出てきた際にそれを無視・破棄したり、無理に証拠を作ったり改ざんしてしまうことが冤罪につながります」と指摘する。

映画では、一度立てた仮説を変えられなくなる怖さも描かれている。その背景として、澤田弁護士が挙げるのが「確証バイアス」だ。自分の考えた筋書きに合う情報ばかりに目が向き、別の可能性を見落としてしまう。また、多忙や疲労が判断ミスにつながる可能性にも言及している。

実務との関係と監修の意義

泊監督は、劇中で描いた上司からの圧力や、捜査を一からやり直す負担が、現実の判断にも影響するのかと質問。澤田弁護士は、映画のような上司からの圧力を自身が経験したことはないとしたうえで、「これまで実際に冤罪事件が発生していることを踏まえると、組織の方針が判断に影響することが起きる可能性を、完全に否定することはできません」と答えた。

対談では、人の証言や自白などの「供述証拠」が、捜査で重視される理由にも話が及んだ。澤田弁護士によると、防犯カメラの映像やレシート、写真などの客観証拠は、それぞれが事件の一場面を示す「点」に当たる。客観証拠だけでは全過程が分からない場合、その点と点をつなぎ、何があったのかを知るために、人の話も必要になるという。

一方で、過去には厳しい口調やブラフを使い、無理に供述を得ようとする検察官がいた可能性も否定できないと説明。映画の描写について「映画を見て、『こんなことは全くあり得ない』と言える世界の話ではありません」と語った。

さらに、「人の判断には誤りがありますし、捜査のストーリーに固執してしまうことも起こり得る。そこに意図的な行為まで重なれば、冤罪につながっていく。本作は、そうした危うさを描いていると思います」と、澤田弁護士。

泊監督は、澤田弁護士が実務と映画として誇張した部分を区別しながら、エンターテインメントとしての表現にも理解を示してくれたと振り返る。「冤罪が日常的に起きているという見方ではなく、例外的であっても現実に起こり得る。そのバランス感覚で、本作のリアリティを支えていただきました」と、監修の意義を語っている。

映画『冤罪のつくりかた』は、11月6日より東京の池袋シネマ・ロサほか全国で順次公開される。