茶道裏千家十六代家元の千宗室さんが、エッセー集「京都の路地 まわり道」上下巻を刊行した。千利休を祖として京都で400年以上続く裏千家の家元が、2009年から旅の情報誌「ひととき」で連載してきた巻頭エッセーから、2014~2024年の120編を収めている。
「上ル」「下ル」の視点で綴る京都
「町中でお茶を教えて伝統文化を伝える。一市井の人間が歩いて、せいぜい自転車で走って見た町の姿です」と千さん。京都で「上ル」は北上、「下ル」は南下を意味し、碁盤の目の町を上がったり下がったりして見聞きしたことを綴る。
遠くは京都市北部の山間部・雲ヶ畑へ。冬に鴨川の源流がある古刹にお参りし、住職から見せられた写真には丸まって眠るヤマネが写っていた。「厳しい冬の寒さを夢心地でやり過ごすとは羨ましい話だ」と、のんきな姿に憧れをにじませる。
路地の迷い込みとジャズの影響
知らない路地に迷い込み、不思議な鳥居や地蔵、井戸に出合った体験も記した。「前を歩く人がふっと消えることはよくある。自分だけの経験は現実か虚構かはっきりと線引きできない。京都の街歩きにはそういうことがある」と語る。
裏千家の拠点・今日庵(京都市上京区)では弟子や職員に囲まれ「完全オフはない」。若い頃から休みには「一人になりたい」とふらりと出かけ、行程は徒歩で10キロ、自転車では20キロにも及んだ。
出張が多く、移動中にスマートフォンで執筆。名文家だった母・登三子さんの教えで音読して推敲する。好きなジャズにも影響を受け、「書き出しにテーマがあり、アドリブを入れ、最後にテーマに戻る。丸ごとジャズです」と説明する。
町の記憶を書き留める
京都に生まれて70年。姿を消した古い町家や貸本屋、神社で寄付を募る傷痍軍人の思い出を書き留める。「町の記憶を呼び起こすお役に立てば何よりですよ」と慈しむように語った。(淡交社、各1760円)



