半月ほど滞在すると言っていたザックは、春が過ぎても砂糖煮の娘の部屋に居続けていた。従業員たちが「このまま本当に住み着くのでは」と噂し始めた初夏、ザックは煙に自国へ帰ると告げた。そして「最後にもう一回だけ庭にテントを張ってもいい?」と頼み、「宿泊客が寝てしまってからでいいから」と付け加えた。
「お願い」と砂糖煮の娘も言った。「ザックのテントで一緒に寝てみたいの」
金ボタンは呆れた顔をしたが、砂糖煮の娘には甘いため、「夜明け前にはテントをたたむんだぞ。客が起きてくる前じゃない、早出の厨房スタッフが出勤する前に」と念を押してから許可した。
煙は「せっかくなので最後の晩は『薔薇の部屋』をご用意しようと思っていたのですが」と微かに困った顔をした。
「じゃあ、朝食は『薔薇の部屋』で!」と砂糖煮の娘が言い、テラス前の芝生に再びテントの杭が深々と刺さり、庭師が頭を抱えることとなった。
星空の下で語る宇宙への希望
砂糖煮の娘とザックは黄色いテントの中で毛布にくるまりながらお喋りをし、煙が運んできた泡立てたミルクをのせた甘いコーヒーを飲み、杏のジャムを挟んだクッキーを食べた。ホテルの窓からもれる明かりがほとんど消えてしまうと、二人はテントから出て星空を見上げた。
静かに瞬く星々を眺め、「いままで思ったことなかったけど」と砂糖煮の娘は言った。「ザックが拾ってくる鉱石みたいね」
「時間を蓄積している鉱石と遠い星の光。確かに近いものがあるかもね」とザックは頷き、白く澄んだ輝きを放つ星を指した。女神が持つ麦の穂と呼ばれている星だった。砂糖煮の娘はそれをジャム瓶から教わった。
「夏には見えなくなってしまうあの星は数百年前の光」
「宇宙って広いのね」と砂糖煮の娘が小さく息を吐く。「ちょっと怖くなる」
「でも」とザックは微笑んだ。「あと数年で人類は宇宙へいく」
「本当に?」
「かなり根拠のある希望的観測」とザックは目を細めて夜空を見上げた。「わたしは怖くない。わくわくする」



