明治の手術シーンに込められた歴史的考証
NHK連続テレビ小説『風、薫る』で医事考証を務める杏林大学医学部特任教授・冨田泰彦氏が取材会に出席し、作品における明治期の医療描写の詳細な舞台裏を語った。同作は明治時代のトレインドナースを題材に、異なる背景を持つ2人の看護婦の成長を描くバディドラマ。見上愛と上坂樹里がW主演を務めている。
冨田氏は2000年から医療監修や医事考証に携わり、漫画『JIN−仁−』やそのドラマ版、大河ドラマ『龍馬伝』、朝ドラ『らんまん』『虎に翼』『あんぱん』など約60作品を担当してきたベテラン。『風、薫る』には2025年4月頃から関わり、「1年以上のお付き合い」と振り返る。脚本の初稿段階から確認し、「丸」「三角」「バツ」の3段階で医療描写をチェックしているという。
手術シーンの違和感は意図的な時代再現
特に視聴者の反響を呼んだのが手術シーンだ。医師がワイシャツにベスト姿で執刀し、マスクや手袋を着用しない演出について、冨田氏は「今の感覚だと違和感があるかもしれないが、当時はまだ細菌学が発展途上だった」と説明。手術用ゴム手袋が開発されたのは1889年(明治22年)頃のアメリカで、日本への普及はさらに後。マスク文化も1918年(大正7年)のスペイン風邪以降に広がったという。
さらに、劇中ではドイツ医学の影響も細部に反映。ドイツ留学帰りの医師が登場する設定に合わせ、手術シーンでは「メス」ではなく「メッサー」、「鉤」は「ハーケン」とドイツ語由来の名称を使用している。
膨大な資料調査と医療文化の変化
明治医療の再現には、東京大学医学部の歴史資料や当時の写真、医療機器カタログなどを参考に、医師の服装や手術器具、消毒方法を検証。「明治時代は数年単位で医療文化が変化しており、その変化を見つけ出すのが非常に難しかった」と冨田氏は振り返る。
冨田氏は医療監修のこだわりについて「作品にリアルさを加えることで、受け手が考えるきっかけになる」と語り、『JIN-仁-』を見て医師を志した学生がいたことを「一番うれしかった」と笑顔を見せた。『風、薫る』については「看護教育の始まりを描いている点」に魅力があると分析し、近代看護の礎を築いた女性たちの歩みに注目してほしいと呼びかけた。



