駅伝と伴走者を描く長編2作、森山世衣さんと逢崎遊さんが出版
駅伝と伴走者を描く長編2作、森山世衣さんと逢崎遊さんが出版

スポーツの秋にふさわしい陸上の長距離競技をテーマにした長編を、気鋭の作家2人が出版した。第33回松本清張賞を受けた森山世衣さん(25)の『ひなたの中継点』(文芸春秋)と、逢崎遊さん(28)の『裸足のゴースト』(中央公論新社)だ。

『ひなたの中継点』:全国高校駅伝の女子選手のリアル

全国高校駅伝は「都大路」の愛称で知られる。森山さん自身も高校時代は、この舞台を夢見て練習に打ち込むランナーだった。「まったく都大路に届くような成績ではなく、憧れの場所だった。でも、走っていたからこそ、憧れだけでなく、女子選手のリアルな部分を書けると思った」と語る。

主人公の麦は、都大路の優勝を目指す強豪校の女子陸上部部長だ。予選を前にエースが自転車にひき逃げされて離脱するなど、チームはさまざまなトラブルに見舞われる。謎が錯綜し、疑念にとらわれながら、麦は練習に打ち込んでいく。

ストーリーの中で浮かび上がるのは、陸上界の課題だ。勝利至上主義の弊害、思春期の少女たちが苦しむ減量や、貧血などの体調不良。自身もランナーとして苦しんだからこそ、その描写は生々しい。「陸上競技をする上で、勝つことや記録以外では外から評価されない。陸上をやる目的はそれだけじゃないはずなのに」。一方で、「ただ問題を訴えるだけの小説にはしたくなかった」。重いテーマに読者を引き込むために、さまざまな謎を加えたミステリーに仕上げた。

麦はレース中に感じる。〈いざ走り始めると、頭の中のもやもやは、すっかり洗い流された〉。物語は謎と同時に、走ることの純粋な喜びと、一人の人間としての麦の自立や成長も描いていく。「駅伝はただ連帯するだけではなく、個々が自立して走らなければ成立しない。駅伝とリンクして描くことができると思った」

小さい頃から物語を書くのが好きで、大学時代に小説の投稿を始めた。思い入れのあるテーマでようやく作家としてのスタートラインに立った。「選手としてはうまくいかなかったことや後悔もあったけど、そういう経験をしてよかったと思える作品ができた」と胸を張った。

『裸足のゴースト』:伴走者と視覚障害者の葛藤

「フルマラソンって、しんどいじゃないですか」。沖縄出身の作家はひょうひょうと語った。市民ランナーだった父につき合って、県内のレースに参加したこともある。「漫画や小説で読んできた走ることに対してのきらきらした感情を、いまいち信じ切れなくて」。レースの世界から離れ、「ランナーとしての足を失った、幽霊のような」男の物語につながった。

長距離選手として実業団チームに入りながら、けがで引退した柴田は、先輩からブラインドランナーの伴走者に誘われる。仕事では日々の過酷なノルマに追われて疲弊し、休日は強烈な個性で周囲を引っ張る視覚障害者の座間と走る日々。柴田の内部に鬱屈がたまっていく。「柴田と座間は2人ともクセが強いので難しかったのですが、どちらかが折れる形にはしたくなかった」。2人の価値観がぶつかり合い、せめぎ合う物語は、読後に深い余韻を残す。

高校時代に小説を書く面白さを知り、沖縄から上京して専門学校に進んで執筆を続けた。とある事件から故郷を離れ、社会の片隅で懸命に生きる少年を描いた『正しき地図の裏側より』(集英社文庫)で2023年に小説すばる新人賞を受けてデビューした。ダンサーやデザイナーなど、不安定な立場で結果を残そうと奮闘する人々を見てきた経験が、物語に生きている。「ストレスがかかるような環境や、ちょっと過酷な道を行く人に、共感できる」と語った。