神奈川県相模原市議会で、議員が人工知能(AI)を使って質問をつくり、市長もAIを使って答弁するという取り組みが始まった。相模原市は生成AI活用で先駆的な自治体として知られる。
全国初の国産生成AI活用
2024年3月の議会で、NECの生成AI「cotomi(コトミ)」を使った市議会の答弁作成の実証実験がスタート。過去の答弁をAIに読み込ませ、質問を入力すると、それまでの議論を踏まえた答弁案が出力される。全国初の自治体による国産生成AI活用の取り組みだった。
本村賢太郎市長は「市政に必要なのは前例踏襲型ではない。失敗は成功の元ぐらいの気持ちでやった。とにかくポジティブに考えて『やろうよ』と」と振り返る。
「魂が足りない」と市長
AIがつくった答弁は「正確」だった。短くしろと言えば短くなり、長い答弁を求めれば長くつくる。過去の答弁との整合性の確認作業も、人間が資料を探してチェックするより明らかに速かった。
それでも本村市長は「魂が足りないというか、熱量がちょっと足りない」と語る。AIがつくる文章は整い、間違いも少ないが、人間がつくった答弁には、時間をかけて議論した跡があり、言葉に熱があるという。
当時、AIが答弁案をつくった後も、職員たちは一字一句を確認。夜遅くまで調整し、翌朝になって「昨日の議論を踏まえて、この文言を変えたい」と修正することもあった。最後は人間が見て、考えて、言葉を選び直し、AIがつくったものに人間が「魂」を入れる作業を担っている。
ガイドライン策定と議員のAI活用
実証実験は終わり、いまは人間が答弁をつくっているが、相模原市がAI活用に後ろ向きになったわけではない。市は26年3月、「生成AI利活用ガイドライン」を策定。日常業務で積極的にAIを使う一方、人間の判断が必要なものは慎重に扱い、外部に出すものは人間がファクトチェックすることを盛り込んだ。AIを使うことを前提に、どこまでをAIに任せ、どこからを人間が担うのかを厳密に分けた。
変化は行政側だけではない。市議の阿部善博さん(56)の朝は午前5時に始まる。ChatGPTに「地方議会朝5時ブリーフ」という仕組みをつくり、前日に起きた地方議会や地方議員に関する情報を集め、報告させている。何を調べるのか、どんな情報を出すのか、情報源をどう示すのか、市民の関心や話題になっている理由――その指示自体を阿部さんが設定している。
同じように、相模原市に関する情報と、「生成AIと民主主義」に関する世界中の動きも報告させている。「毎日このレベルできますので、流れとかがわかるんですよ」と話す。また、議員活動で集めた情報とAI活用を組み合わせた質問もつくっている。9月に行われた決算審査の質疑でも、その手法が使われた。