紺碧のアビタシオン第10回:美貴子、母の絵を返してもらい父に感謝
紺碧のアビタシオン第10回:美貴子、母の絵を返してもらい父に感謝

「返してください!」――美貴子は自分でも驚くような声で、新しい母に母の絵を返すよう懇願した。これまでこの母にこんな口を利いたことはなく、かじりついて触れたこともなかった。

新しい母との対立

「お母様の絵を返してください!」と涙声で訴える美貴子に、母は「あなたの母はこの私です。いつまでもわがままを言う子どもは許しませんよ」と応じた。美貴子が「返して! 返して!」と繰り返すと、事態が解決しない様子を見た使用人が美貴子の肩を抱き、「少しお部屋でお休みしましょう。あたたかいミルクをお持ちします」と部屋へ連れていった。

机に突っ伏して泣く美貴子の背中を優しく擦る手も、その手のぬくもりも、今日はうっとうしいものに感じられた。いつの間にか眠ってしまい、目を覚ますと、目の前にはすっかり冷たくなったミルクの入ったティーカップがあった。人の気配を感じて振り返ると、背広姿の父が立っている。

父の取り計らい

父は美貴子の肩に手を置き、その手にはお母様の絵があった。父が母に言って絵を取り返してくれたのかもしれない、と美貴子は思った。父は「いつもここに置いておくことにしよう。お母様はここにいて、勉強している美貴子を見守っているからね」と言い、絵を窓辺の棚のいちばん上に置いた。そこに置いてしまえば、椅子を使っても美貴子の手は届かず、絵を食卓や浴室に持っていくことはもうできなくなった。

それでも美貴子は泣き腫らした目でその絵を見て、父を見て、「ありがとうございました」と小さな声で言った。父は疲れた顔でうなずき、何か言いたげな顔をして部屋を出ていった。

決意

仕事で疲れているいつもの父の姿だったが、自分が今日のような騒ぎを起こして、さらに父を疲れさせてしまうのは嫌だった。とはいえ、新しい母に心を開いて自分から仲良くすることはできそうもない。ならば衝突しないように暮らしていこう――それが父のためでもある。幼くも賢い美貴子はそう自分の心に誓った。