福岡市在住の詩人で文芸批評家の二沓(にとう)ようこさんが、戦後の“幻の女性探偵作家”たちを追い、現代の視点でとらえ直す評論『〈家庭の天使〉を殺す時間 ジェンダーの視点で読み解く日本ミステリ史』(書肆侃侃房)を刊行した。男性主流の探偵小説の世界で、性的マイノリティーなど先見性のあるテーマで作品が紡がれたことに着目。約20年がかりで作家たちの足跡をたどった力作だ。
「宝石」全251冊を調査
二沓さんが戦後の代表的な探偵小説専門誌「宝石」(1946~64年)の全251冊の作品リストや目次総覧を調べたところ、女性の書き手は全体の1割にも満たなかった。当時、探偵小説は低俗なものと見なされ、賞の選考委員や評論家は男性中心で「女流作家に論理性が欠けている」といった評価が公然となされていたことなどが背景にあるという。
作品に込められた「レジスタンス」
こうした中で「宝石」に積極的に短編作品を書いていた深尾登美子(1913年~没年不明)は、「足音」(55年)で跡取りを望む夫への反抗として不妊手術を受けた女性探偵をヒロインに設定した。「湖に死す」(56年)では、性的マイノリティーの女性主人公が「男からも女からも愛される資格はない」と悩み、美少年を金で買って伴侶として育てようとする姿を描いた。評論では、これらの作品を時代背景とともに読み解くことで、家父長制や女性に押しつけられた性役割などへの〈「レジスタンス」としての色彩が濃厚〉と分析する。