『波よりも穏やかで、星よりも青く』(萩埜まこと著、KADOKAWA、924円)は、制服が選べる学校に通う高校生たちの揺れる心情を瑞々しく描く漫画だ。かつては学生服のスカートかズボンかは選ぶまでもなく決められていたが、現在では選択できる学校も増えている。
ズボン登校の光と転校生・成海
高校2年の新学期、涼は幼なじみの光と同じクラスになる。制服が選べる環境で、ズボンで登校している女子は光ひとりだ。周囲は騒ぎ立てないが、光自身は「何になりたいのかわからないんだ…」とこぼすように揺れている。そこに、かつて女優として活動していた転校生の成海がやってくる。
彼らはそれぞれに惑いを抱える。光は性別に対して明確なものを掴めず、成海は芸能活動を休止しながらも演技への欲求が振り切れない。涼は、性別について悩む光のそばに居ながら、男性の自分が光に想いを寄せることをためらっている。
ささいで重要な学校生活の一場面
3人が織りなすのは瑞々しい日常だ。登校する時間を合わせるかどうか、互いの呼び名、帰り道に先を歩く学友に追いついてまで声をかけるか――それはささいで、でも学校生活では重要になる出来事だ。若い彼らの生活のほとんどは学校と家庭での時間で成り立っており、その一場面がやわらかな筆致で描かれることで、閉鎖的になりがちな世界にさわやかさを感じさせる。
丁寧に築かれる関係性の中でも、彼らは互いにいい顔だけを見せていけるわけではない。成海は「どっちにするか…ちゃんと決めなきゃね」と口にする。人は社会で暮らし、どうふるまい、どのような自分であるのかを選択していくのは、学生に限らず誰にもつきまとう。
悩みに向き合う清々しさ
物語を読むと、戸惑いながらも悩みに向き合う瑞々しい光景を眩しく見ると同時に、決めなければならない息苦しさも見逃せなくなる。それでも、きっと彼らは歩き、成長していくのではないか――そう思わせる清々しさが作品を包む。(マンガ司書・みさき絵美)=寄稿=
萩埜まことは愛媛県出身。主な作品に『熱帯魚は雪に焦がれる』『窓辺のリノア』『萩埜まこと短編集 どこかの星のふたり』などがある。