農業未経験から始まった棚田との出会い
佐賀県玄海町に広がる「浜野浦の棚田」は、県を代表する景勝地の一つとして知られている。この美しい棚田の保全と振興に、約5年間にわたり地域おこし協力隊員として携わってきたのが武藤敬哉さん(31)だ。武藤さんは現在、棚田の耕作者や景観保全に努める人々で構成される「浜野浦夕日組合」の副組合長も務めている。
棚田保全の中心組織「浜野浦夕日組合」
浜野浦夕日組合は、佐賀県が推進する「棚田ボランティア」事業において、浜野浦の棚田保全に中心的に取り組む組織である。松本長喜組合長を中心に15人のメンバーが活動しており、60代を中心とした構成となっている。この組合には、棚田の耕作者だけでなく、保全に協力したい個人も参加している。
組合の活動内容は多岐にわたり、耕作放棄地の草刈り作業から、景観を彩るヒマワリやコスモス、菜の花などの栽培、さらには棚田の先に広がる海岸の清掃活動まで行っている。これらの取り組みは、単なる農業活動を超え、地域の景観と環境を総合的に守ることを目的としている。
まったくの素人からの挑戦
武藤さんが地域おこし協力隊員として活動を始めたのは2021年6月のことだった。大学を中退して実家にいた時期に、新聞記事で募集を知り、農業経験がまったくないにもかかわらず応募したという。
「農業機械を見たこともないまったくの素人でしたが、地元の皆さんが手取り足取り教えてくださいました。草刈りには必ず参加し、できる限りの手伝いをさせていただきました」と武藤さんは振り返る。
年間220日以上の通い続けた日々
武藤さんは隊員として活動する中で、年間に220日以上も棚田に通い、地道な作業に従事する日々を重ねた。この継続的な関わりを通じて、次第に棚田保全の重要性を実感するようになったという。
「なぜ、町が地域おこし協力隊員を雇ってまで守ろうとしているのか。その理由を肌で感じ取ることができました」と武藤さんは語る。農業未経験者だからこそ、棚田の価値と守ることの意義を新鮮な視点で捉えることができたのかもしれない。
新たなステージへ
約5年間にわたる地域おこし協力隊員としての活動を経て、武藤さんは2026年4月から自身の会社に軸足を移し、浜野浦の棚田振興への取り組みをさらに深めていく予定だ。隊員時代に培った経験とネットワークを活かし、新たな形で棚田保全に貢献していく方針である。
浜野浦の棚田は、単なる農地ではなく、地域の歴史と文化、美しい景観が凝縮された貴重な財産である。武藤さんのような若い力が加わることで、伝統的な棚田農業と景観保全の取り組みは新たな息吹を得ている。農業未経験から始まった一人の男性の挑戦は、地域の未来を守る大きな力へと成長しつつある。



