三重県伊勢市にある近畿日本鉄道の宇治山田駅は、皇室関係者や首相が伊勢神宮参拝のために利用することで知られる「神都」の玄関口だ。国登録有形文化財に指定された同駅舎には、特徴的な「火の見櫓」を備えた塔があり、通常は立ち入ることができない内部が存在する。東洋経済の取材に対し、山本一史駅長と伊藤直光助役がその知られざる裏側を明かした。
「火の見櫓」付きの駅舎の歴史
宇治山田駅は1931年の開業以来、現在まで変わらぬたたずまいを保っている。駅舎の一角にそびえる塔には「火の見櫓」が設置されており、かつては駅周辺の火災監視に活用されていたという。山本駅長は「この櫓は駅のシンボルであり、昔は駅員が交代で見張りをしていたと聞いています。現在は使われていませんが、歴史的価値の高い遺構です」と説明する。普段は施錠され、関係者以外立ち入れない塔の内部は、狭い階段が螺旋状に続き、最上部には展望台のようなスペースが広がる。
皇室利用と式年遷宮の影響
7月9日には、天皇皇后両陛下の長女愛子さまが、伊勢神宮の式年遷宮に関連する「御木曳行事」を視察するため、8月1日から2日にかけて三重県を訪問すると発表された。式年遷宮は20年に一度、社殿を新たにする伝統行事で、2033年秋の「遷御の儀」に向けた儀式が2025年から始まっている。御木曳は社殿建築用の木材を宮域内に引き入れる一大行事であり、多くの参列者が訪れる。山本駅長は「宇治山田駅は近鉄を代表する駅の一つ。式年遷宮関連で多くのお客様が利用されるため、臨時改札口や臨時待合室を設けるなど、万全の体制でお迎えします」と語る。
観光向けばかりでない一面
伊勢神宮は江戸時代に「お伊勢参り」が大ブームとなり、現在も名古屋・京都・大阪と特急で直結する近鉄線が主要な交通手段となっている。しかし、宇治山田駅には観光客向けのサービスだけでなく、地元住民の生活を支える機能も備わっている。伊藤助役は「通勤通学の利用も多く、駅の裏側にはバスのターンテーブルや荷物運搬用の設備が残っています。普段は見えない部分ですが、駅は地域のインフラとして多様な役割を果たしています」と補足する。駅舎内には、かつてバスの転回に使われたターンテーブルが今も保存されており、歴史的な価値が認められている。
駅長の思いと今後の展望
山本駅長は「宇治山田駅は神都の玄関口として、多くの方に伊勢の魅力を発信していきたい。火の見櫓や塔の内部など、まだ知られていない駅の魅力を、安全に配慮しながら公開する方法を検討したい」と今後の展望を語った。駅舎は国の登録有形文化財として保護されており、改修や活用には制約があるものの、地域のシンボルとしての価値を高める取り組みが期待される。



