同人誌やZINEに見る自由な装丁の魅力
同人誌やZINEなど、個人が制作する本や冊子には、書店に並ぶ商業出版とは異なる自由な装丁がよく見られる。小口(紙の裁断面)がマーブル模様になったものや、金色のタイトル文字、形が変わったものなど、目にも楽しいデザインが特徴だ。こうした個性的な製本は、どのように作られているのだろうか。同人誌専門の印刷会社を訪ね、その舞台裏を探った。
印刷会社が支える個人制作者のクオリティ向上
もちろん、コピー機やホチキスを使った手作りでも本は作れるが、プロの手を借りることでクオリティは大きく向上する。日本では、同人誌の即売会・コミケ(コミックマーケット)が盛んに行われ、同人文化が根付いているため、個人で発注できる印刷会社が全国に存在する。現在では、本のサイズや紙の種類、部数などを指定し、原稿データをオンラインで送るだけで、高品質な本が制作できる時代となった。
しまや出版(東京都足立区)の小早川真樹社長(53)は、「お客さんのほとんどは、印刷や製本の業界とは関係ない素人さんです。初心者でも分かりやすいサービスを心がけています」と語る。1968年創業の同社は、個人制作の本を専門に扱い、年間約9000件もの受注をこなしている。仕上がりの早さや料金の安さなど、印刷会社ごとに様々な強みがあり、しまや出版の魅力は、用紙や加工の種類の豊富さにあるという。
豊富な選択肢で個性を引き出す
表紙用の紙は、一般的な白い紙から、光沢や凹凸があるものまで、100種類以上の色や質感が用意されている。表面加工も多彩で、一部をくりぬいたり、箔押しを施したりすることが可能だ。特に人気なのは、印刷した表紙にポリプロピレンを熱圧着する「PP加工」で、すべすべだがツヤを抑えた「マットPP」など11種類から選べる。
選択肢が多いため、制作者はとことんこだわることができるが、同人誌印刷業界の基本は、用紙代や印刷代などを含むセット商品だ。これにより、初心者でも迷わずに選びやすくなっている。また、変わり種として、手のひらサイズのA9サイズの本に透明なカバーと金具をつけてキーホルダーにできるセットや、カセットテープやDVDを模したパッケージに入れた本など、ユニークな製本も提供されている。
ZINEの広がりと手に取る喜び
近年では、こうした印刷物を「ZINE」と呼んで制作する人々も増えてきた。小早川社長は、「裾野が広がっているのはいいことだと思う」と話し、個人創作の多様性を歓迎している。社長自身、創業者だった義父の急逝をきっかけに同社を引き継いだ当初は全くの初心者だったが、印刷技術や同人文化を学び、自らも同人誌を作る経験を通じて、本作りの楽しさを実感したという。
「本を作ってイベントに出て、同じものが好きな人や、買いに来てくれた人とコミュニケーションを取るのが楽しい」と語る小早川社長は、そんな場面を念頭に、「お客さんの宝物になるように、丁寧に作業しています」と強調する。スマホ一つで情報を発信できる現代でも、創作物を手に取り、言葉を交わす喜びがあるからこそ、見た目にも個性的な一冊を作りたくなるのだろう。



