惣十郎浮世始末 第255回 お粂の目に隠された秘密が明らかに
惣十郎は、ピクリと跳ねそうになった眉をかろうじて抑え、さあらぬ態で話を続けた。彼の心には、お粂の言葉に対する疑念が徐々に膨らみ始めていた。
「お前がねぇ。どうやって探ったんだえ。鍛冶の腕の善し悪しなんぞ、そうそう人の口にゃあ上らねぇだろう」
お粂は今のところ、妙な隠し立てはせず正直に話をしているように見えた。しかし、それゆえに、なにか大元のところで明らかにされていないことがあるのではないかと、惣十郎は引っかかりを覚えはじめる。
リュクトポムプ開発の真相を追う
「なるほど。それでお前は、源次郎が通ってる鍛冶町の飯屋に夫を差し向けたってぇわけか」
案の定お粂は、ハッと息を吞むような素振りを見せて、口を引き結んだ。その反応から、惣十郎はさらに核心に迫る質問を投げかける。
「もしかすると、リュクトポムプを造ることを思い付いたのも、夫でも弓浜清佑でもなく、お前だったんじゃあねぇのか」
突っ込んで問うたが、すでにそのときにはお粂の面から動揺は消えていて、代わりに白々しい高笑いが放たれたのだ。
「そんなはずぁないだろ。あたしは窮理についちゃ、なんの知識もないんだよ。舶載蘭書だって読めないからね。旦那様に言われるがまま手伝ってただけなんだから」
矛盾点と新たな疑問
それがまことであれば、五年前のお調べの際、拷問されてもなお、造っているのは武器ではないと強弁できたろうか。むしろ、囚われたことに驚いて、まともな申し開きもできずに終わるのではないか。仮に亭主を庇う目当てがあったとしても、最前のように理路整然とリュクトポムプの仕組みを説くことはできぬだろう。
そもそもお粂の夫なり、弓浜清佑なりが主導していたのなら、図面も彼らが引いたのではないか。いかにお粂の図面がうまくとも、下書きくらいは発案した人物が描くのが普通ではないか――それに片目で図面を引くのは難儀ではないのかと惣十郎は気付き、新たな疑問を抱く。
「ちみに、その目はどうした。いつからそうなったんだえ」
お粂の突然の変貌
訊いたときだった。お粂は突如、雷にでも打たれたように身を大きく震わせ、顔色を変えたのである。ただでさえ青白かった顔が、見る間に漉きたての紙のように真白に変じていく。
「牢に戻しておくれっ」
唐突に、お粂が叫んだ。その声には、これまでの冷静さは微塵もなく、切迫した感情がにじんでいた。
「気分が悪い。牢に戻しておくれっ。早く戻しておくれっ」
この瞬間、お粂の目に隠された秘密が、事件の核心に深く関わっていることが、惣十郎には明らかになった。彼女の反応は、単なる体調不良以上の何かを示唆しており、今後の調査に新たな展開をもたらす予感が漂う。



