吉川英治文学賞・文庫賞 ベテラン作家2人が輝く受賞の瞬間
第60回吉川英治文学賞は朝井まかてさん(66)の『どら蔵』(講談社)、第11回吉川英治文庫賞は石田衣良さん(65)の「池袋ウエストゲートパーク」シリーズ(文春文庫)に決まりました。東京都内で行われた記者会見では、ベテラン作家2人がユーモアたっぷりに受賞の喜びを語り、創作への新たな決意を明らかにしました。
朝井まかてさん:時代小説で軽妙な会話と作為のない境地を追求
朝井まかてさんは、受賞の記者会見の前に吉川英治文学新人賞の選考会で作品を議論していたと振り返り、「運や巡り合わせがある。受賞した時は、星を一つもらった気分になります」としみじみと語りました。『どら蔵』の構想を練っていた2022年は、ロシアによるウクライナ侵略が始まり、コロナ禍の余波も続いていた時期で、閉塞感を感じたことから、「せめて明るい、時代小説らしい時代小説を書こう」と決意しました。
作品は江戸時代後期を舞台に、「あほぼんの典型」と呼ばれる道具商の放蕩息子が、骨董の世界で奮闘する物語です。大阪生まれで上方の文芸を愛する作家として、軽妙な会話は持ち味の一つ。近年は評伝的な小説に取り組むことが多く、「実際の人物や歴史上の事件を扱うときには、省きがちだった」と語り、今作ではその制約を解き放って書いたと説明しました。
2008年に小説現代長編新人賞の奨励賞を受けてデビューし、直木賞などの文学賞を受賞してきた朝井さん。真贋がテーマの今作にちなんで「本物の小説」について問われると、「難しい」と笑いながら、「泣かそうとか、笑わそうとか、作為のない境地で書いていきたい」と創作哲学を語りました。
石田衣良さん:シリーズ21作で世相を鮮やかに映し出す
石田衣良さんが受賞した「池袋ウエストゲートパーク」シリーズは、東京の池袋西口公園近くで果物屋の店番をするマコトが「池袋のトラブルシューター」として様々な事件を解決していく物語です。会見で、「その時の事件や世相を放り込んでサッと仕上げる。気の利いたおつまみみたいな小説」と飄々とした様子で語りました。
1997年にオール読物推理小説新人賞を受賞し、受賞作に続編を加えた『池袋ウエストゲートパーク』でデビュー。同作はテレビドラマ化されるなど話題を集めてきました。単行本では既にシリーズ21作目を刊行し、昨年文庫となった19作目『神の呪われた子』では宗教2世や闇バイトの問題を題材にするなど、常に社会の最前線で注目される出来事をテーマにしています。
「目の前で起きている世界のことをできるだけ鮮やかに書き留められるといいなと思っている」と語る石田さん。デビュー以降、歩みをともにしてきたマコトの見解は「95%僕の見解」と話し、「書きながら、なんてセンスがいいやつだ、とあきれていることがあります」と笑わせました。
両氏の受賞は、ベテラン作家の継続的な活躍と文学界への貢献を称えるものとして、読者や関係者から祝福の声が寄せられています。記者会見では軽妙なやり取りが交わされ、文学の楽しさと深みを改めて感じさせる一幕となりました。



