三毛猫との穏やかなひとときを突然の訪問が中断
ミューミューという鳴き声に呼ばれて、お雅は裏庭へと足を運んだ。いつもの三毛猫が、物欲しそうな眼差しでこちらを見上げている。お雅は小声で「ちょっとお待ちな」と告げ、勝手口をくぐった。今朝方、汁物の出汁をとるのに使ったアラをほぐして土器に載せ、三毛の前に置くと、猫は「んまんま」と聞こえる不思議な声で鳴きながら一心に食べ始めた。
「せっかく、ふたりきりで過ごせそうだったのにね」とつぶやいても、三毛はこちらを見ようともしない。しょんぼりとうなだれた拍子に、隼太の顔がふと浮かんだ。お雅はしゃがんだ自分の膝に額を落とし込み、静かなため息をついた。
隼太の不意の訪問と謎めいた言葉
先日、不意にやってきた隼太は「旦那に」と枇杷を手渡しながら、上目遣いにお雅を見た。「うちの婆さんが枇杷を持っていけと言ったのはまことのことですけどね、枇杷だけのことでしたら親分に預ければよございましょ」と彼は言い、続けて耳打ちした。「でね、余計なお世話だと煙たがられるかもしれませんけど、お雅さんと少しお話しさせていただきたいの。佐吉さんのいないところで」
玄関前の掃き掃除をしている佐吉にちらりと目を遣ってから、隼太はそう囁いた。不審を覚えつつも、惣十郎の手下とあっては無下にするわけにもいかず、お雅は玄関からもっとも離れた南側の庭へと彼を誘った。多津の部屋が近いため気兼ねもしたが、少し前に様子を見に行ったときには寝入っていたから、小声で話すくらいであれば平気だろうと考え、縁側そばで向かい合ったのだった。
長々とした前置きに痺れを切らすお雅
「もう一度言いますけどね、今から申し上げることは、余計なお世話の上に、あたしの推量なんです」と隼太は語り始めた。「ただあたしはね、これまでいっぺんたりとも推量を外したことがございませんの。お雅さんにお目に掛かったのは一度きり。お名前だって、親分に確かめたくらいの係り合いですから、あたしが申し上げることじゃないんですけどね、でも性分でどうにも気になっちまって夜も眠れないもんですから、今日は思い切って押しかけてまいったんでございますよ」
なんの話だか皆目わからぬ言上が延々と続く。お雅は痺れを切らし、「あの、御用向きをおっしゃってくださいな」と、いささか剣呑に言って、語り続ける隼太を遮った。隼太の真意は依然として霧の中にあり、お雅の心には不安と疑問が渦巻いていた。



