木内昇『惣十郎浮世始末』第237回 源次郎の証言に矛盾、武器密造事件の真相は
『惣十郎浮世始末』第237回 源次郎の証言に矛盾

雑物掛の否定と鍛冶町への足取り

雑物掛に問い合わせを試みた惣十郎であったが、お粂が描いたという図面は蔵に存在せず、帳面への記載も一切ないという返答を受けた。はなから預かっていないはずだと、呆気なく突っぱねられたのである。崎岡の言う通りではあったものの、詰所に戻ってそのまま報告するのも癪に障り、惣十郎は雪駄を突っかけ、さっさと奉行所を後にした。源次郎に話を聞いておこうと考えたのである。

鍛冶町の熱気と若き御用職人

まだ朝のうちだというのに、鍛冶町には鉄を打つ勇ましい音が響き渡っていた。あちこちで火を使っているせいか、路地を吹き抜ける風まで熱を帯びている。御用職人の多い一帯で、ようよう見付けた源次郎の作業場には、引両紋の象られた鞘や鍔などが置かれており、彼が下野国のお抱えであるらしいことが察せられた。

源次郎は意外にも若く、歳は二十九。独り立ちして八年になるのだと、三日月のようにせり出した顎からしたたり落ちる汗を拭いつつ、惣十郎に答えた。近くの飯屋でお粂の亭主と一緒になったのが縁で、お粂とも往き来ができたという。

「それで鉄の棒だの筒だのを頼まれましてね、仕事の合間にちょいと造った次第です」

お粂らが造っていたのが武器ではないにしても、御用職人を駆り出すとは、また大それたことをする。むしろ武器ではないから、源次郎に堂々と頼めたと考えることもできるが。

証言の矛盾と新たな疑問

「お粂さんが捕まったと聞いたときは肝を潰しましたよ。しかも武器密造でしょ。到底、そんなもんを造ってるとは思えませんでしたけどねぇ」

源次郎の言葉に、惣十郎は眉根を寄せた。

「だったらなんだって、お粂たちの造ってる品が鉄砲らしいと自身番に訴えたのだ」

訊くと、源次郎はただでさえ前にせり出した顎をいっそう突き出した。

「え……誰が、です。誰が、お粂さんが造ってんのが鉄砲だと、自身番に言ったんですか」

「いや、お前さんだよ。お前さんが、鉄砲の部品を頼まれたと番太郎に告げたと聞いてるが」

すると源次郎は、思うさま見開いた目の前で、大きく手を振ったのだ。

「冗談じゃねぇですよ。そんな、お粂さんを売るようなこたぁしませんよ。確かに注文は受けましたが、どれも鉄砲の部品になるようなもんじゃねぇですからね」

「つまり、お粂のことは一切番太郎にゃ話してねぇのか」

源次郎はしばし考えてのち、「それは、話しましたけど」と、まるで辻褄の合わぬことを口にした。この矛盾した証言は、武器密造事件の真相に新たな影を落とすこととなった。