スモーキングルーム第193回:ジャム瓶の過去とホテルでの自由な生き方
スモーキングルーム第193回:ジャム瓶の過去と自由な生き方

スモーキングルーム第193回:貯蔵室と砂糖煮の娘

誰もジャム瓶の正確な年齢を知らない。彼女は「あたしは娘の時分からここにいるんだよ」と口癖のように言うが、面と向かって年齢を尋ねる勇気のある者は誰もいなかった。針金がホテルを去り、老いた庭師が腰を痛めて息子に庭園を任せるようになり、ホテルが公爵家の屋敷だった時代から居続けている従業員は、今やジャム瓶ただ一人となった。

乳母からホテルの住人へ

当初、ジャム瓶は屋敷で乳母として雇われていた。しかし、ホテルには乳母という業種は特に必要なく、その単語自体が貴族時代の遺物になりつつあった。そもそも、歳をとったジャム瓶は子供が好きそうには見えなかった。客の子供が玄関ホールや廊下で騒げば「うるさいねえ」と顔を顰め、泣きやまない幼子がいると「ここは大人の場所だよ、静かにしな」と叱責した。そのため、乳母だったという過去を疑い、「一体なんの赤子の面倒をみていたんだか」と笑う従業員は多くいた。

そのたびに、金ボタンは「ジャム瓶が叱るのは別に子供に限ったことじゃないだろう」と言った。ジャム瓶は、総支配人だった針金だろうが、料理長だろうが、気に食わないことがあると「ろくでもないねえ!」と嚙みつき、勝手に庭園のハーブや可食できる花を摘んでは老庭師と大喧嘩していた。そういう意味では、彼女の態度には分け隔てがなかった。

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地下での自由な生活

客相手にも嚙みつきそうな様子から、ジャム瓶には接客といったホテルの表の仕事は一切させられなかった。とはいえ、厨房のスタッフとも清掃係とも言えず、長い間、彼女は地下で甘い保存食を煮て小言をいい、食料品貯蔵室で昼寝をするだけの存在だった。そのため、「小鬼の乳母」という渾名もついていた。

「あたしは家政婦頭になるはずだったんだからね!」とジャム瓶はよくぶつぶつ言っていた。家政婦頭は女主人に代わって公爵家の一切を取り仕切り、執事とも同格であったのだと彼女は説いた。「つまりは、屋敷の女王ってわけだね。それがまあ、つまらない世の中になっちまったよ!」と愚痴りながら、彼女は厨房でつまみ食いをして丸々と肥え、寒い日は温かい蒸気に満ちた洗濯部屋で女たちとお喋りをし、空いた客室で体を洗い、ホテルで好き勝手に生きていた。

絶品のジャムと寛容な扱い

ただ、ジャム瓶の作るジャムや果実の砂糖煮、シロップは絶品で、客からも好評だった。そのため、彼女の放埒ともいえる振る舞いを咎められる者は誰もいなかった。彼女の存在は、ホテルの歴史と共にあり、その自由な生き方は、ある種の特権のようにも見えた。

この物語は、ジャム瓶という個性的なキャラクターを通じて、ホテルという閉ざされた空間での人間関係と時間の流れを描いている。彼女の過去と現在が交錯する中で、読者はその謎めいた魅力に引き込まれていく。

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