スモーキングルーム第188回:将校と軍人の緊迫した対話
スモーキングルームに入ると、一人掛けのソファに身を沈ませた金髪碧眼の将校と目が合った。彫像のような端正な顔が不機嫌そうに歪み、その表情からは厳格な軍人としての気質が滲み出ている。
婚約の祝福と遺伝子への懸念
巨軀の軍人が将校を見つけると、姿勢を正して敬礼をした。将校は座ったまま軽く敬礼を返し、「婚約おめでとう。長官の許可が下りたそうだな」と声をかける。軍人は「はい!純血の娘です!」と誇らしげに答えた。
将校は素っ気なく「当たり前だ。我々の隊は選ばれし者なのだからな、相応な相手でなくては」と返し、吸いかけの煙草を灰皿に押しつけた。その動作には、軍の規律に対する厳しい姿勢が表れていた。
喫煙と秘蔵酒を巡る議論
軍人が「大佐は……」と切り出したが、将校は「休暇だ」と遮り、「喫煙のことは長官には言うなよ」と睨みつけた。軍人はめげずに「大佐はご結婚されないのかと」と尋ねると、将校は「くだらないことを訊くな」と一蹴した。
その間、金ボタンは二人が話している隙に、軍人のスボンの裾にはねた酒やソースの汚れを素早く拭っていた。軍人は「喫煙も勤務時間外ならば良いのでは」と提案したが、将校は「優良遺伝子を傷つけ、肺癌の原因になるそうだ」とうるさそうに言い返した。
巨軀の軍人はさらに粘り強く、「我々は決起会をしております。大佐もどうぞご参加を。『金の羊』の秘蔵酒がありますよ」と目を細くして粘着質な笑みを浮かべた。将校は立ち上がり、「私はいい」と拒否し、「お前たちが好き勝手にしているその秘蔵酒とやらは国庫に納められるべきJの財産だぞ。横領じゃないのか」と厳しく指摘した。
軍人は「そんな大袈裟な。みんなやってますよ」とにやにやしたが、将校はバーカウンターを振り返り、「私の酒は部屋に」と短く声をかけて、スモーキングルームを出ていこうとした。
高官との偶然の出会いと悪夢の話題
その時、高官と実業家の一群が入ってきて、一人が将校に「おや、めずらしい」と声をかけた。将校は敬礼をせず、「休暇中なので失礼します」とだけ答えた。
高官が「このホテルは君のお気に入りかね」と尋ねると、将校は「まあ……」と曖昧な返事をし、「街より、よく眠れるので。時々、悪夢をみますが」と付け加えた。高官は「なのに、使っているのか。君らしくもない。どんな夢かね?」と興味深そうに質問したが、将校の返答は描かれていない。
この一連の対話は、軍内部の階級や規律、個人の生活と公務の境界線を浮き彫りにし、将校の孤独や内面の葛藤を暗示するものとなっている。千早茜によるスモーキングルーム第188回は、緊迫した人間関係と日常の小さな軋轢を繊細に描き出した。



