ホテルを舞台にした緊迫の逃避劇
呆然とした将校に背を向け、大理石の床を鳴らしてエントランスを抜けていく人物がいる。大階段の陰で固唾を吞んでいた蝙蝠を手招きし、「総支配人には君が相応しい」と告げる。追いかけてきた金ボタンに対しては、「今夜が最後だ」と唇を動かさずに言った。
決断の瞬間
「車椅子のオーナーを収容所に放り込ませるわけにはいかない。わたしは彼の傍にいるよ。わたしはやはり小物だったな」と語る一方で、金ボタンは「客に暴言を吐けるホテルマンは大物だよ」と眉毛を下げて笑った。この夜、総支配人が鳥の巣を連れてきた。鳥の巣はいっそう痩せ、かさかさの手をずっと擦り合わせていた。
両親はおそらくもう収容所に送られたこと、収容所は男女別に入れられるので家族が一緒にいることは難しいと伝えると、鳥の巣の妹は涙を流して納得した。地下の礼拝堂でいつものように祈ると、鳥の巣の妹は金ボタンたちに心からの感謝を述べた。
別れの情景
総支配人は彼女の手の甲に恭しく唇をつけた。鳥の巣の妹は、総支配人と金ボタンの頰に口づけし、煙を見つめた。「あなたも一緒に逃げない?」と問いかけるが、煙は「僕はここを離れない」と答えた。金ボタンは黙っていた。
鳥の巣の妹は煙の手を取り、しばらく見つめた後、自分の頰に当てて目をとじた。「どうぞご無事で」と煙は静かに言った。きょうだいは地下道の闇に消え、森のホテルに隠れていたJもその晩のうちに修道院へ移った。金ボタンは朝方まで聖母に祈りを捧げた。
ホテルの変容
蝙蝠が総支配人になり、歪に傾いた黒十字の赤い旗がホテルの正面玄関に掲げられた。大階段上の獅子と雄鹿の紋章も旗で覆われ、客室の鍵に刻まれていた紋章も削り取られた。この変化は、ホテルが新たな支配下に入ったことを象徴している。
この物語は、緊迫した状況下での人間の決断と別れ、そして場所の変容を描き出している。登場人物たちの心情と行動が、読者に深い印象を残す展開となっている。



