生成AIが変えるSIerの役割、ARアドバンストテクノロジ「AI駆動開発」で挑む
生成AIが変えるSIer、ARアドバンストテクノロジの挑戦

クラウドと人工知能(AI)の普及により、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)は新たな段階に突入している。特に生成AIは、システムインテグレーター(SIer)の役割そのものを変革しつつある。従来の「システムを構築する」という枠組みを超え、AIを前提とした開発プロセス全体の再設計が求められている。この考え方を「AI駆動開発」と名付けたのが、ARアドバンストテクノロジだ。同社はクラウド時代から先端技術を追い続け、AI時代のSIer像をどのように描いているのか。代表取締役社長の武内寿憲氏に、その戦略と展望を聞いた。

リーマンショックが創業の転機に

武内氏は大学卒業後、大手外資系IT企業で営業職としてキャリアをスタート。マネージャーとして大型プロジェクトを担当した後、独立系SIerに転じ、取締役や代表取締役として経営に携わった。社員数を100名規模まで拡大する成果を上げたが、2008年のリーマンショックによる市場環境の変化が転機となる。事業の一部を切り出す形で、2010年にARアドバンストテクノロジを設立。当初は10名にも満たない小さな組織からの出発だった。

創業時の会社像について、武内氏は「リーマンショック前後でIT業界そのものが大きく変わった」と振り返る。それ以前は、企業が高価なサーバーやハードウェアを導入し、構築・保守することがエンジニアの主な仕事だった。オンプレミス環境が中心で、「35歳定年説」が語られるほど人材が消耗品のように扱われる風潮もあった。しかし、リーマンショック後はクラウドコンピューティングが普及し、アマゾン ウェブ サービス(AWS)の日本展開などを契機に、ITはハードウェア中心からソフトウェア中心へ急速にシフト。「これからはITそのものの価値が変わる」と確信したことが、創業の大きな理由だったという。

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DX市場の現状と生成AIのインパクト

現在のDX市場について、武内氏は「数年前までは『IT化=DX』と考えられるケースが多かった」と指摘する。企業は「まずシステムを入れよう」「紙をデジタル化しよう」という段階で止まってしまい、その先の経営改革まで議論が進まないことが課題だった。本来、DXとは単なるデジタル化ではなく、デジタル技術によって事業や経営そのものを変革し、競争力を高めることが本質だ。しかし、SIerやベンダーだけがその方向へ導けるかというと、実際には難しい面もある。顧客企業の経営戦略や競争優位性は外部からは見えないため、ベンダーには「このシステムを作ってほしい」という要件だけが渡され、それを実現する役割に留まりがちだ。DXが進まない理由をベンダーだけに求めることはできず、ユーザー企業側の理解も重要になる。

生成AIの登場は、この状況を大きく変えた。武内氏は「お客様自身のITリテラシーが飛躍的に向上した」と語る。以前は「システムとは何か」「どうやって自動化するのか」をベンダーに聞かなければ分からなかったが、今は生成AIが相談相手となり、「こういうシステムなら実現できそうだ」「こういう業務は自動化できるのではないか」という発想を企業自身が持てるようになった。RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)が普及した時にも自動化への関心は高まったが、生成AIがもたらした変化はそれ以上だ。もちろん、現時点で企業が自ら高品質な基幹システムを構築できるわけではないが、お客様自身がシステムの仕組みを理解し、より具体的な仮説やアイデアを持った上で相談できるようになり、議論の質が格段に高まっている。

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「AI駆動開発」とは何か

ARアドバンストテクノロジが提唱する「AI駆動開発」は、システム開発の一部分だけにAIを使うという話ではない。設計、プログラミング、テスト、運用まで、開発ライフサイクル全体をAI前提で設計し直す考え方だ。例えば、設計書の作成、コード生成、テストケースの作成、品質確認、運用保守まで、あらゆる工程でAIを活用することで、生産性を極限まで高めていく。ただし、AIを導入するだけで成果が出るわけではない。どの工程で、どのAIを、どのように活用すれば最も効果が高いのか、そのノウハウを蓄積していくことこそがAI駆動開発の本質だと武内氏は強調する。今後はAIを使うこと自体が差別化ではなく、「AIを前提にどう開発プロセスを設計するか」が企業競争力を左右する時代になるだろう。

競争が激しいIT業界において、同社の強みは「クラウドネイティブ」「AIネイティブ」といった先進技術を活用しながら、企画・コンサルティングから設計、開発、運用までを一気通貫で提供できる点にある。現在は、AIだけ、クラウドだけ、コンサルティングだけというように、それぞれの専門領域に特化したブティック型企業が数多く存在する。それぞれの専門性は非常に高く、技術を深く追求できるメリットがあるが、お客様にとってはクラウドはA社、AIはB社、システム開発はC社と複数のベンダーを調整する負担が大きい。特に情報システム部門の人材が限られている企業では、「全部まとめて任せたい」というニーズが少なくない。同社は、各専門領域でブティック型企業にも引けを取らない技術力を持ちながら、それらをワンストップで提供できる点が高く評価され、多くの引き合いにつながっている。

成長を支える企業文化と人材

高い成長を支える要因として、技術力に加えて独自の企業文化も大きい。同社には「ARI人らしさ3要素」という考え方がある。一つ目は「自信がなくても、自分を信じられる人」、二つ目は「自分だけではなく、チーム全体の成功を自分事として喜べる人」、三つ目は「他人と比較するのではなく、自分自身と向き合える人」だ。これは経営陣が一方的に決めたものではなく、創業から約10年が経った頃、社員たちが「ARIらしさとは何だろう」と話し合い、自発的に言語化してくれた価値観である。武内氏は「社員が会社の文化を自分たちで定義してくれたことに大きな意味がある」と語る。

社員同士のつながりを重視する文化も特徴だ。ランチや懇親会、旅行など、社員同士の交流に使えるコミュニケーション費用を毎月支給している。形式だけの福利厚生ではなく、「人とのつながり」を会社として後押ししている。その結果、創業以来、社員紹介によるリファラル採用が毎年約3割を占めている。社員が「知人にも勧めたい会社」と感じていることは、会社への信頼の表れだと武内氏は考える。

AIで社会課題の解決を目指す

今後の事業展望について、武内氏は企業向けDX支援だけでなく、日本全体が抱える社会課題にもAIを活用する考えを示す。例えば、鉄道インフラの点検だ。地方鉄道では、線路や枕木、トンネルなどの点検を現在でも人が目視で行うケースが数多くある。少子高齢化で保守要員が減少する中、このままでは維持が難しくなることは明らかだ。同社は鉄道設備を効率的に点検する仕組みの実現に取り組んでいる。こうした取り組みは、将来的には空港や高速道路、橋梁など、さまざまな社会インフラへ応用できる可能性がある。社会インフラを守る人手不足という日本全体の課題をAIで解決する。そのような仕事に携われることが、エンジニア自身の大きなやりがいにもなっている。単にシステムを開発するだけでなく、「社会を支える技術」を生み出している実感が、社員のモチベーションにもつながっている。

2035年の目標達成に向けて最も重要なことについて、武内氏は「人の創造性」を挙げる。IT業界はハードウェアの時代からソフトウェアの時代へ、そして今はAIの時代へと大きく変化している。生成AIの普及でお客様自身のITリテラシーも高まり、アイデアはこれまで以上に数多く生まれるだろう。一方で、企業ごとの強みや事業戦略を反映した競争力のあるシステムを実現するには、人の創造性が欠かせない。これからは単純に社員数を増やすのではなく、AIを使いこなし、新しい価値を生み出せる人材を育成し、そのような人材が集まる会社になることが重要だと考えている。