富士通・ファナック・安川電機・川崎重工、NVIDIA技術でフィジカルAI社会実装へ
富士通・ファナック・安川電機・川崎重工、NVIDIA技術でフィジカルAI社会実装へ

富士通、ファナック、安川電機、川崎重工業の4社は7月16日、都内で記者会見を開き、NVIDIAの技術を取り入れたフィジカルAI(物理人工知能)の社会実装に向けた事業検討を開始すると発表した。デジタルとフィジカルをつなぐソブリン性(自律性)を確保した協調制御基盤の開発を推進し、製造や物流、ヘルスケアを含むさまざまな産業分野におけるフィジカルAIの社会実装を加速することで、人とロボットが共存・協働する社会の実現と、日本の産業競争力の強化を図る考えだ。

富士通、協調制御基盤のリーダーシップを担う

富士通の代表取締役社長である時田隆仁氏は、記者会見で次のように述べた。「ロボットは工場や物流、医療・介護といったヘルスケア領域をはじめ、社会における本格的な活用が期待されている。これまで人が担ってきた作業の単なる置き換えではなく、ロボットが人と同じ空間で協働・協調できるかということが実装の大前提になっている。今回のスキームでは当社がリード役となり、各業務アプリケーションとロボット制御技術をシームレスにつなぐ協調制御・タスク計画基盤をNVIDIAの技術を取り込みながら構築していく」。

まずは、フィジカルAIの社会実装を工場や小売・物流、ヘルスケアの各産業分野で検討し、今後は他の産業分野にも広げていく。工場向けソリューションでは、生産変動要因と製造現場状況を加味した工場の生産活動全体の計画最適化と現場適応の自律化により、製造業に対し、さらなる生産性向上とフレキシビリティを実現する。小売・物流向けソリューションは、リアルタイムの販売・在庫状況を加味した物流計画をもとに、搬送業務を自動化することで、物流の省人化・自動化を実現する。ヘルスケア向けソリューションでは、病院内業務システムからの指示を起点に最適化された計画のもと、ロボットが自律的にタスクを実行することで、ロボットによる医薬品や検体の院内搬送の自動化や、外来患者の受付、案内サービスを実現していく。

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ファナック・安川電機・川崎重工が語るフィジカルAIの可能性

ファナックの代表取締役社長である山口賢治氏は、「人手不足や多品種少量生産への対応、自動化・高度化に対するニーズはこれまで以上に高まっている。そのため、ロボットとAIを組み合わせたフィジカルAIの社会実装は重要な役割を果たす。富士通のLLM(大規模言語モデル)『Takane』をはじめとした自律型のAI基盤と、NVIDIAの先進的なAI技術、当社のロボット技術を組み合わせることで、現場で柔軟に誰でも扱いやすく実用可能なAIシステムの実現を目指す」と強調した。

安川電機の副会長執行役員である小川昌寛氏は、「データの活用は人手不足や自動化で課題を解決してくれるのはもちろんのこと、データが導き出す新たな気付きは、それを超えるものがあると確信している。当社はNVIDIA製のGPUを搭載した自律型AIロボット『MOTOMAN NEXT』をいち早く市場に投入している。私は“自律”にこだわりを持っており、『動きと知恵を持ち、そしてことをなす』ということが今進み始めたと信じている。ROS 2(Robot Operating System 2)対応をはじめ、将来的にオープンプラットフォームとして活用を見据え、フィジカルAIの社会実装に取り組んでいく」と展望を語った。

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川崎重工業の代表取締役社長執行役員である橋本康彦氏は、「ヘルスケアの領域にロボットとフィジカルAIが加わることで、高齢化が進む日本において大きな可能性を感じている。富士通の病院における電子カルテやIT技術と、当社の手術支援ロボット、看護師・介護士向けロボットを組み合わせてワンストップソリューションが提供できる。フィジカルAIの登場で、日本の産業全体が大きく変わる節目だと考えており、モノづくりを重視していた日本にとっては大きな力になる」と期待を示した。

協調制御基盤「Fujitsu Kozuchi Physical OS」の開発

さらには、各社が持つAI、ロボティクス、制御、シミュレーション、データ分析などの先端技術を組み合わせ、フィジカルAIの共通基盤となるソフトウェアプラットフォームやハードウェアインタフェースを開発する。これにより、さまざまなロボットや設備間での連携を容易にし、高度な自律制御システムの実現を目指す。一方で、ロボットの適用領域の広がり、それによる他設備との連携が拡大することで、サイバー攻撃、システム全体のダウンや誤作動、機密情報の漏えいなどのリスクも高まるため、富士通はソブリン性を確保した協調制御基盤「Fujitsu Kozuchi Physical OS」の開発を進めている。今後、同協調制御基盤に賛同する企業や研究機関などとともにオープンプラットフォームとして提供し、産業界全体でフィジカルAIの実装を推進していく。

NVIDIAのフアンCEOが語る、フィジカルAIと日本のモノづくりの未来

NVIDIAとの連携に関しては富士通が主体となり、ロボット産業界の各社と事業検討を進めながら、NVIDIAのフィジカルAIプラットフォームを構成するAI・ワールドモデル・シミュレーション・ロボティクス技術を構成要素として活用することで、富士通が目指すソブリン性を確保した協調制御基盤の高度化と、産業分野におけるフィジカルAIの社会実装を加速していく。

これまで、NVIDIAはフィジカルAIの実現に必要なフルスタックを構築。開発するための仮想世界を作り出す「NVIDIA Cosmos」「同Omniverse」、ロボットが技能を学ぶための物理シミュレーション上の訓練環境である「同Isaac Sim」とオープンソースの物理エンジン「Newton」、その知能を実際に動かすロボティクスコンピュータ「Jetson」などを提供している。今回、Cosmosを富士通の社会物理シミュレーションの構成要素として活用し、現場全体の理解・予測能力を強化。さらに、製造・物流・ヘルスケアなどの多様な現場におけるフィジカルAIソリューションの開発と社会実装を進めていく。また、OmniverseやIsaac、Newtonなどのライブラリを活用し、Sim2Realやロボット学習・検証・最適化を効率化していく方針だ。

NVIDIAの創業者兼CEOであるJensen Huang(ジェンスン・フアン)氏は、記者会見で次のように述べた。「日本は、卓越性とは偶然に生まれるものではないということを世界に教えてきた。日本の卓越性は単なる手法ではなく、哲学であり、生き方そのものだ。『メイド・イン・ジャパン』は、最高の品質・精度を意味する。日本は、近代製造業における最先端の基準を打ち立ててきた」。

同氏は各社の技術力の高さを引き合いに出し、ファナックのサーボはDNAの鎖よりも小さい1ナノメートル単位で位置決めを行い、安川電機のエンコーダーは1回転あたり6700万点を分解し、人間の目では到底見分けられないほどの精度を実現しているという。また、川崎重工業のロボットアームは、100分の1ミリメートルの精度で、同じ動作を何時間も、何年にもわたって繰り返している点を挙げている。

そのうえで、フアン氏は「これらは、日本で生み出された不可能を可能にする技術だ。メカトロニクス、すなわち、機械、電子、制御の融合。この分野を日本ほど熟達した形で実践している国は、世界のどこにもない。そして今、次なる革命が到来した。15年にわたる取り組みを経て、フィジカルAIが現実のものとなり、これはAIの次なる波であり、次の産業革命の基盤となる」と力を込めた。

フアン氏は「AIでロボットは賢くなり、容易に適応できるようになり、多くの人にとって利用しやすいものになる。それは大手製造業だけのためのものではなく、日本のモノづくりを支える中小の工場、地域のサプライチェーンを担う工房、そして何世代にもわたってモノづくりの技を受け継いできた家業のためのものでもある。AIは、プログラムするのではなく、教えることのできるロボットをもたらし、数週間ではなく、数分で新しい部品に適応できるロボットをもたらす。そして、熟練の職人が自らの技能を次の世代へと受け継がせることを可能にするロボットをもたらす。フィジカルAIによって、モノづくりは次の世紀へと受け継がれていく」とコメントした。

今回の発表は、単にロボットにAIを搭載する取り組みではない。富士通が協調制御基盤を整備し、ファナック、安川電機、川崎重工業のロボティクス技術と、NVIDIAのフィジカルAIスタックを組み合わせることで、現場ごとに異なるロボットや設備、業務システムを横断的につなごうとするものだ。製造業の生産性向上に加え、物流の省人化、ヘルスケア領域での業務支援など、適用範囲は広い。フアン氏が語ったように、AIによって「プログラムするロボット」から「教えられるロボット」へと進化すれば、日本のものづくりは次の産業革命においても大きな役割を担う可能性がある。