競争的贈与が生む経済格差と社会階層化を数理モデルで解明
競争的贈与が生む経済格差と社会階層化を解明

東京大学大学院に所属する研究者らが2024年にPLOS Complex Systemsで発表した論文「Emergence of economic and social disparities through competitive gift-giving」は、贈与による地位の競争を数理モデルで表現し、社会構造がどのように変化するかを計算機シミュレーションによって明らかにした研究報告である。

競争的贈与のメカニズム

世界中の多くの伝統的社会では、儀式の場などで公的に贈り物を与えることで、贈り主が名声を得て、受け取った側に返礼の義務を負わせる競争的な贈与という慣習が存在する。これは単なる親切心からの物のやり取りではなく、相手に義務を課しながら自らの地位を高める社会的な駆け引きである。贈与すると受け手が与え手に利子をつけてお返しできれば両者は対等な関係を結ぶが、適切な返礼ができなければ、受け手は与え手に従属することになる。

2つの要素が社会を変える

本研究では、この贈与の相互作用を「何倍にして返せば適切な返礼と認められるか(効率)」と「生涯に何回贈与を行うか(頻度)」という2つの要素に落とし込み、社会全体にどのような変化が起きるのか数学的にシミュレーションした。個人iから個人jに対する贈与と、利子を上乗せした返礼のやり取りがモデル化された。

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4段階の社会変化

シミュレーションの結果、これら2つの要素が大きくなるにつれて、社会状態が4つの段階を経て規則的に変化していくことが判明した。具体的には、贈与が活発になるとまず人々の間に経済的な格差が生まれ、次いで社会的な名声の格差が広がっていく。そして強制的な富と名声を持つ一人の王が出現し、それと同時に一般民衆の間の身分差は縮小していく。

歴史観への新たな視点

この格差の広がりと社会ネットワークの変化プロセスは、人類学で知られる典型的な社会構造の移り変わりに対応している。最初は平等な血縁関係で結ばれた関係だったものが、同意識で連帯する部族となり、やがて身分差が明確な首長制社会を経て、最終的に安定した権力を持つ「王国」へと発展していく。贈り物のやり取りが激しくなるにつれて経済的・社会的な格差が生まれ、平等な集まりから身分差のある王国へと社会構造が変化していく。

これまで人類の歴史は、余剰生産物が増えたことで非労働者を養えるようになり、社会の分業が進んだと説明されがちだった。しかし本研究は、豊かな生産物が人々の間で贈与の競争を活性化させ、その相互作用こそが格差や社会構造の変化を生み出す原動力になったという歴史観を示唆している。

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