SNSの噂をきっかけに、常識を覆す研究が始まった
ロート製薬のヘアケアブランド『Gyutto(ギュット)』から、新製品『ギュット コルセットヘアミルク』が発売された。この製品の開発は、SNSで広まったある噂がきっかけだった。「スキンケア商品の『肌ラボ』を髪に塗ると、なぜか髪が自然に落ち着いて指通りがよくなる」という複数のユーザーの声を、同社の営業部がキャッチしたのだ。
開発部の平塚裕実さんは、「営業部から『本当に髪にいいんですか?』『髪の何にいいんですか!?』と聞かれたものの、科学的なロジックを説明できなかった」と当時を振り返る。ロート製薬は、商品の用法・用量を守ることを大原則としており、本来の用途と異なる使い方については注意喚起を行ってきた。しかし、『肌ラボ』はヒアルロン酸をキー成分とする化粧水で、「全身に使える」ことを公式HPで謳っていたものの、髪の指通りがよくなるとは想定していなかった。
業界の常識「ヒアルロン酸は髪に無関係」に挑む
そもそも、髪の毛にはヒアルロン酸が存在しないため、ヘアケア研究においてヒアルロン酸は「ノーマーク」だった。さらに、一般的なヒアルロン酸は分子量が大きく、髪の内部に浸透しないという科学的認識もあり、開発陣は当初「髪に影響を与えるわけがない」と考えていた。
しかし、ロート製薬は目薬の会社として、目の研究を通じてヒアルロン酸の作用に長年着目。2003年頃からはスキンケアにおける研究も行い、独自の知見を積み重ねていた。平塚さんは、社内にある分子量や構造の異なる多くのヒアルロン酸を集め、毛髪に塗っては乾かす実験を繰り返した。その結果、「ヒアルロン酸カリウム」という成分が、使用感が良く、ダメージによる髪のうねりを補修する可能性を持つことを発見した。
放射光施設でメカニズムを解明
しかし、その効果を証明する文献はどこにもなく、半信半疑だった開発陣は、仙台市にある3GeV高輝度放射光施設NanoTerasu(ナノテラス)で解析を行った。髪がうねる原因や、ヒアルロン酸カリウムが毛髪内部へもたらす効果のメカニズムを明らかにしたのだ。
平塚さんは「誰も解明していない事実を今、自分たちが暴こうとしている。知りたい欲求が大きく、眠さよりワクワク感のほうが勝っていました」と振り返る。こうして、ヒアルロン酸カリウムが髪をベタつかせずに内部へ浸透し、ユーザーの悩みにアプローチできるメカニズムを確認。平塚さんは「ユーザーのお声は開発陣にとってすごく貴重。まさかのご意見からメカニズムを解明できたことは、まさに“棚ボタ”でした」と語る。
デオコ開発者の執念が生んだ新製品
平塚さんは、女性用体臭ケアブランド『デオコ(DEOCO)』の生みの親でもある。デオコも、男性向けボディソープ『デ・オウ』を使っている女性からの「女性が使ってもいいんですか?」という声がきっかけで誕生した。平塚さんは10代から50代までのべ100人以上の女性の体臭を嗅ぎ分け、「女性は年齢とともに甘い香り(ラクトン)が減っていく」という事実を明らかにした。
ロート製薬は、70年以上前から目薬にアンケートはがきを封入し、ユーザーの声を集めてきた伝統がある。平塚さんは「厳しい言葉にはショックも受けますが、そこにこそヒントがある。満たされていない部分をどう良くしていくか? SNSなどでダイレクトな声を聞く機会が増えたため、実際の声をより商品づくりに生かせるようになっています」と話す。
新作『ギュット コルセットヘアミルク』の特徴
新製品『ギュット コルセットヘアミルク』は、アウトバス製品で、髪を乾かす前や出かける前になじませることで、日中の“うねり戻り”にアプローチする。湿度が高くなる夏場に悩む人は多く、紫外線や湿度変化、冷房による乾燥などで髪の水分コントロールが効かなくなり、外からの水分を過剰に吸い込んで膨らむのが原因だ。
同製品は、ロート製薬の知見を結集した独自の「アクアコルセット技術」を搭載。ヒアルロン酸カリウムと乳酸がパサつく髪に潤いを与えて補修し、PVP(補修成分)が髪の表面をコーティングすることで、内側と外側の両面からサポートする。香水の邪魔をしない超微香や、スキンケアにも使われる成分を採用するなど、使い心地にもこだわっている。
平塚さんは「新成分のスペックを信じて、さらに商品としてお客様の期待値を超えるものにする」というプライドを持って開発に臨み、「この素晴らしい素材に出会えたのも、自分の開発の歴史に刻みたい商品になったのも、すべてはハッとさせてくれたお客様のおかげ」と感謝を述べた。



