大人がイライラするのは、幼児のように物を投げたり暴れたりできないからだと、生物学に詳しい明治大学教授の石川幹人氏は指摘する。現代社会では暴力による解決が禁じられているが、脳は依然として暴力志向に活性化しているため、イライラが生じるという。同氏の著書『科学が解明した 悩んでもしょうがないことリスト』(サンマーク出版)から、そのメカニズムと対処法を紹介する。
大人のイライラはなぜ起こるのか
幼児はお気に入りのおもちゃが壊れると、物を投げたり暴れたりする「だだこね」行動を示すが、しばらくするとけろっと元に戻る。動物も同様で、思い通りにならないと力任せに行動し、どうにもならないと悟るとあきらめる。しかし大人は、社会的ルールによりこのような「うっぷん晴らし」ができない。石川氏によれば、人類は暴力による紛争解決をやめる決断をしたが、心の備えは依然として「まず暴力を試みる」という原始的な状態にある。これがパワハラ横行の背景でもある。実際、スティーブン・ピンカーの『暴力の人類史』(青土社)によれば、暴力による死者は歴史的に減少しているが、脳の反応は変わっていない。
イライラを鎮める簡単な行動
イライラを止めるには、活性化した脳を沈静化すればよい。そのために「ため息」が効果的だ。息を吐き切ることで肺の空気がなくなり、脳への酸素供給が低下する。すると脳は酸素不足の危機を感じ、活動を沈静化させる。ただし、職場などで大きなため息をつくと周囲に嫌な印象を与えるため、長く小さく息を吐くことが推奨される。これはヨガの瞑想や仏教の坐禅でも知られる心を落ち着かせる方法でもある。
現代社会では、理性を重視する新たなイライラも登場している。理性を発揮するには、複雑な物事を論理的かつ系統的に考える必要があり、その際に使われるのが前頭前野だ。この部位は人類で最も進化した「新しい脳」であり、いわば進化途中の脳であるため、十分に機能しないことがある。理性が思うように働かないことも、イライラの原因となる。
イライラの先にあるもの
石川氏は、イライラは人間の生物学的な特性に根ざしており、完全に避けることは難しいと指摘する。しかし、ため息のような簡単な動作で一時的に鎮めることができる。また、SNS時代の嫉妬など、新たな感情の悩みについても同書で考察している。イライラを感じたときは、まず深呼吸で脳を落ち着かせることが有効だ。



