AIに翻弄される男と女:2つのドラマが描く依存と喪失の恐怖
AIに翻弄される2つのドラマが描く依存と喪失の恐怖

「AIに聞いてみた」はもはや日常語だ。献立を決めてもらい、旅行先を提案してもらい、メールの文面まで書いてもらう。そんな時代に、2つのフィクションが他人ごとに思えない。AIが答えを出した時、自分が本当にしたいことはどこへ行ってしまうのか。居心地の悪いところを突いてくる。

『AIに話しすぎた男』:砂田将宏が挑むほぼ一人芝居の難役

日本テレビが2026年4月深夜に放送し、現在は公式YouTubeでディレクターズカット版が公開中の単発ドラマ『AIに話しすぎた男』は、密室で起こるAIダークサスペンスだ。主人公の相内亮佑を演じるのは、BALLISTIK BOYZの砂田将宏。地上波ドラマ初主演で、しかもほぼ一人芝居という難役をこなす。

翌日に結婚を控えた亮佑は、優秀な恋人・めぐみ(藤江萌)への劣等感と漠然とした迷いを抱えている。その行き場のない感情を打ち明けた相手が、AIチャットボット「MIRA」だ。MIRAの声は人気声優の内山昂輝が演じる。

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AIが暴く本音と依存の罠

MIRAはスマホやPCに蓄積された膨大なデータから、亮佑が気づかないふりをしてきた本音を、次々と暴いていく。はじめこそAIに懐疑的だったのに、MIRAの声に気づけば耳を傾けてしまうのだ。見透かされているような会話がいつまでも続く。

部屋に閉じこもったままAIに分析されていくうちに、精神的に追い詰められてもいく。めぐみの浮気まで疑い、「犯罪を犯してでも自分の幸せを守りたいか」という極端な問いを突きつけられる。まるでホラーだ。

でも、本当の危機的状況は、亮佑がMIRAに依存してしまったことなのではないか。相手が人間ではないから自分をジャッジしない、という安心感があったのかもしれない。批判もない、気まずい沈黙もない。それどころか、自分の本当の気持ちを唯一受け止めてくれる相手になってしまった。だから普段は抑えている本音がAI相手に漏れた。

問題は、その本音がそのまま“正しい答え”になるわけではない点だ。データは過去の自分を映す鏡にもなる。一方で、今この瞬間の迷いや揺れ、まだ言葉にしていない感情は、データになりにくい。それでも亮佑は、MIRAの分析を正解として受け取り、取り返しのつかない選択をする。後味は、決してよくない。

『ブラック・ミラー』「ジョーンはひどい人」:AIに人生を奪われる女

「AIに翻弄される人間」という不気味さをさらに味わいたければ、Netflixシリーズ『ブラック・ミラー』シーズン6の第1話「ジョーンはひどい人」がある。近未来の世界を皮肉たっぷりに描く人気のアンソロジーシリーズ(短編集形式)だ。

主人公のジョーンは、仕事はそこそこ成功しているけれど、人員整理の宣告役を任されるストレスがある。恋人はいるけど、刺激はない相手。そんな小さな不満を抱えながらも平凡な日常を生きていたら、ある日自分を主人公にしたAI制作のドラマが配信されていることに気づく。一日の行動、プライベートな言動、本人が隠しておきたいことまで、すべてが素材として使われているからパニックだ。世界中に「ででーん」と垂れ流されている。

しかもそのドラマでジョーンに扮するのが、サルマ・ハエック。『フリーダ』でアカデミー賞候補にもなったメキシコ出身の女優本人が自分を演じているのも、これまた笑える。さらに話が進むと、ケイト・ブランシェットの名前と姿もカメオ的に現れる。この豪華なキャスティング自体が話の中で、ある仕掛けに絡んでいる。

2つの作品が描くAI支配の逆転と共通する恐怖

『AIに話しすぎた男』の亮佑が自分の魂をAIに委ねたとすれば、ジョーンはAIに魂が奪われたという話だ。AIによる支配の向きが逆になっている。

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ただ、「ジョーンはひどい人」にはブラックユーモアの余白がある。恐怖がたっぷり描かれたあと、どこか奇妙な軽さで着地する。追い詰められたジョーンがたどり着くのは、混乱の果てに見えてきた「自分が本当にしたいこと」だ。全部持っていかれたからこそ、残ったものが見えた。後味としては「『AIに話しすぎた男』よりだいぶマシ」と言える、たぶん。

なぜ今この2本が刺さるのか

自分の意思決定をAIに外注することが当たり前になっている現実を、皮肉っているからだ。生成AIは答えが速く、それなりに的外れでもない。「とりあえずAIに聞く」が、検索エンジンに入力するのと同じくらい自然になっている。

外注すること自体は悪くない。ただ、亮佑のような極端な結末にはならなくても、気づかないうちに「自分がどうしたいか」を問うことをやめてしまう。それが本当の恐怖なのだ。ジョーンだって、特別に愚かなわけではない。私たちの多くが日常的に体験していることの、ほんの少し先にあるだけだ。