鳴門教育大学などの研究グループは、被子植物のコモウセンゴケが、天敵の昆虫に葉を食べられた経験があると、その後、花を狙われた際に守りを強化することを明らかにした。脳を持たない植物が過去の食害経験を「記憶」し、防御の強さを調節できることを示しているという。
食害経験が花を閉じる反応を強化
コモウセンゴケはコケ植物ではなく、モウセンゴケ属の被子植物だ。ピンクの花を半日ほど開き、おしべの花粉がめしべの先について種子をつくる。しゃもじ型の葉についている赤い毛の粘液で虫を捕らえる食虫植物だが、モウセンゴケトリバというガの幼虫には葉や花を食べられてしまう。
鳴門教育大学の田川一希准教授(進化生態学)は2018年、モウセンゴケ属の花の下部に刺激を与えると、2~10分ほどで花が閉じる現象を発見した。花を閉じることによって、内部の胚珠(はいしゅ)という種子になる部分がモウセンゴケトリバの幼虫に食べられるのを防ぐことができていた。
ただ、風や雨のほか、無害な生物による刺激などでも常に強く花を閉じてしまうと、遺伝的な多様性につながる他家受粉の機会を失い、自家受粉で種子を作らざるをえなくなる。田川准教授らは、過去に葉を食べられた経験のあるコモウセンゴケが、その「記憶」をもとに刺激に対して強く花を閉じているのではないかと考えた。
実験で確認された防御の調節
田川准教授らは、開花1日前の室内栽培のコモウセンゴケで実験をした。食害を模して葉を切除した15株(食害経験株)と、何もしていない17株(対照株)を用意し、モウセンゴケトリバの幼虫が茎を登って花に近づくことを模し、花の下部にある「萼筒(がくとう)」の部分をピンセットで1秒に1回、計10回つまむ刺激を与えた。その15分後、花の閉じ具合を計測すると、食害経験株の方が対照株より小さな角度まで花を閉じていた。
また、刺激を与えた時刻による反応の違いを調べたところ、対照株は開花直後の早朝だとあまり強く花を閉じず、時刻が遅くなるほど強まっていた。これに対し、食害経験株は刺激に対して常に強く花を閉じた。
植物が一部の器官の食害経験をもとに、別の器官の防御の強さを調節できることを明らかにした成果だという。田川准教授は「今後はどのような化学物質が関わっているかといった分子メカニズムや、種間比較を通じた進化的背景の解明を進めたい」としている。
共同研究と論文掲載
今回の研究は兵庫県立人と自然の博物館や愛知教育大学と共同で進め、7月2日に国際学術誌「エソロジー」に掲載された。