京都大学(京大)と東京都立大学(都立大)は9月10日、革新的な高分子加工技術「ディープフォーム フォトリソグラフィ」(DFP)を確立し、顔料や塗料を使うことなく世界最高レベルの白色を生成することに成功したと共同発表した。
白色顔料の課題と新技術の背景
塗料として十分な白色を維持するには、塗布した際に薄く伸ばしても高効率な光の散乱を実現する必要があるため、実用的な発色が可能な材料はきわめて少ない。現在は白色顔料として、透明性や高屈折率性、製造コスト、化学的安定性などの観点から、酸化チタン(二酸化チタン)が広く普及している。
しかし、酸化チタンは安全な物質と見なされてきた一方、食した場合に「遺伝毒性の懸念を排除できない」として、EUでは2022年に食品添加物としての使用が禁止された(日本では現時点では禁止されていない)。より安全な白色材料が求められる中、両者はDFPを確立した。
研究の成果とメカニズム
同成果は、京大高等研究院物質-細胞統合システム拠点のEasan Sivaniah教授、同・Qin Detao特定助教、都立大理学研究科物理学専攻の柳島大輝准教授らの共同研究チームによるもので、詳細は、シュプリンガー・ネイチャー社が刊行する英国総合学術誌「Nature」に掲載された。
白色を生成するには、すべての波長の光が複数回ランダムに散乱され、角度に依存しない反射を実現する必要がある。酸化チタンは透明性と高屈折率性を併せ持つ優れた白色顔料であるため、その代替材料を見つけるのは容易ではないと考えられている。
一方、自然界には白色顔料を使わずに高い発色効率を実現する生物も存在する。中でも東南アジアに生息するコガネムシ科の甲虫「キフォキルス属」は、キチン繊維による三次元ネットワークによって、わずか厚さ5〜10µmで良質な白色を実現している。これを再現する研究も行われているが、安定した材料の生成や印刷への応用には至っておらず、構造白色の印刷は未踏の領域だった。
研究チームは今回、汎用的なポリマーに微細なフォーム(発泡)構造が発生する現象を発見。このフォーム構造が高効率な光散乱能力を持つことから、高精細な白色印刷に展開できる手法としてDFPと名付け、その発生機序と応用について報告することにした。
DFPの特徴と応用可能性
DFPは、ポリマーのフィルムやファイバーにフォーム構造を発生させる手法で、UV露光と現像の2ステップからなる。光架橋剤を添加したポリマーにUVを照射するとラジカルが発生し、ポリマーの切断と架橋が同時に進行する仕組みだ。これにより、低分子の切断片と高分子ネットワークが生成される。
次に露光したポリマーを、ポリマーに対して弱い相互作用を持つ溶媒に浸すと、溶媒がポリマー表面から浸透する。このとき、切断によって生じた低分子生成物は元のポリマーより溶媒に溶けやすいため、周囲の溶媒を選択的に引きつける。その結果、ポリマーが局所的に相分離を起こし、核生成・核成長型の相分離によって泡状のフォーム構造が形成されるメカニズムが示された。
やがて、浸透圧が均衡して膨張が止まると、フォーム構造の合体・オストワルド熟成が支配的になると推定され、フォームの数は減少していくが、個々の泡状構造の大きさは増加していく。適切なUV露光の条件を選ぶことで、ポリマーの最適な切断と架橋のバランスが達成され、フォーム構造の形成を実現することができる。このフォーム構造生成は、溶媒中で形成されるが、構造を壊さずに空気中に取り出し乾燥させることが可能であることも確かめられた。
この泡状構造は、すべての波長の光を効率的に複数回散乱するため、白色を生成する。もとのポリマーが透明であることから余分な光吸収もなく、高い白色度を実現可能だ。また、架橋可能なポリマーであればDFPを適用できることも確認されており、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、セルロースアセテート、PMMA(アクリル樹脂)、PETなど、さまざまなポリマーでフォーム構造と白色を生成することに成功したという。
印刷への適用可能性もDFPの大きな特徴だ。UVが照射された場所のみにフォーム構造が生成するため、ステンシル(型紙)やUVプロジェクターなどによって、エリアを選択して白色を生成できる。半導体産業などで用いられるフォトリソグラフィ向けの高度なUV露光装置も利用可能で、これにより2万dpiの超高精細な白色印刷が実現された。
さらに、DFPでは副次的に超撥水性を持つ表面も生成できることも見出された。フォーム構造を極端に膨張させる条件では、フォームの壁面が薄くなって破裂し、その際に内部の溶媒が絞り出されてポリマーが濃縮される。非結晶性ポリマーでは球状のコロイドが、結晶性・半結晶性ポリマーでは結晶を伴う球状構造が形成され、花が咲いたような「フラワー状構造」になる。この微細構造が、蓮の葉のような超撥水性を実現することが明らかにされた。
このフラワー状構造もUV露光領域のみに形成できるため、超撥水性を示す領域を制御できる。また、ポリマーフィルムだけでなく高分子ファイバーに形成すれば、表面に微細な棘状の凹凸を持つ超撥水性ファイバーも作製可能だ。この撥水素材は、自然環境で分解されにくいことから近年急速に規制が進むPFASの代替材料としても期待されるという。
DFPは典型的なフォトリソグラフィのプロセスを応用したものだが、従来のポジティブ型とネガティブ型の両方の特徴を備えたハイブリッド型と解釈できるという。フォトリソグラフィはナノマテリアル作製手法として成熟している一方、条件を少し変えることで今回のような現象が見出されたことは、ナノサイエンスに新たな視点を与えるものとしている。
研究チームは今回の成果について、エコフレンドリーな先進材料、京都の伝統産業とのコラボレーション、アーティストへの新素材の提供という3つの軸で、実社会への展開が期待されるとしている。



