理化学研究所(埼玉県和光市)の先端光学素子開発チームは、日本の強みである「超精密加工」技術を駆使し、科学研究のための新装置を次々と開発している。金属などの材料を1マイクロメートル(1000分の1ミリ)より細かい精度で削るこの技術は、最先端科学を支える縁の下の力持ちだ。
日本の競争力と超精密加工の重要性
同チームの山形豊チームディレクター(62)は、「日本企業が世界的に強い、数少ない分野の一つだ」と語る。超精密加工は、レンズやミラーといった光学素子の製造に不可欠で、立体的な形状にナノメートル級の精度が求められる。可視光の場合、波長が400~700ナノメートルであるため、数十~百数十ナノメートルの精度が必要となる。
天体観測装置「面分光ユニット」の開発
山形氏らは、国立天文台先端技術センターの櫛引洸佑助教(31)と共同で、数年前に「面分光ユニット」という天体観測用装置を開発した。この装置は80枚のミラーを100ナノメートル以下の精度で仕上げる必要があり、銀河や星雲などの広がった天体を赤外線で観測する際に、場所ごとの波長を効率的に分析できる。すばる望遠鏡での試験観測も成功している。
中性子ビーム集束ミラーへの応用
さらに、物質の構造解析に使う中性子ビームを集束させるミラーも手がけている。これにより、散乱した中性子線を細いビームに集め、物質に照射する中性子の強度を数倍に高められる。この技術は、加速器施設「J-PARC」(茨城県東海村)をはじめ、海外の研究機関にも導入されている。
超精密加工機と材料の国内調達
理研には、超精密加工機が3台あり、ダイヤモンド工具で材料を削り、コンピューターで正確に制御する。製造元の芝浦機械はこの分野で世界トップ級だ。加工材料には「無電解ニッケルリンメッキ」という特殊な被膜(厚さ0.1ミリ)を施す。このアモルファス物質は、ダイヤモンド工具で削ると高精度の曲面ができる。山形氏によると、このメッキ材料の供給元は「私の知る限り、日本を含め世界で数社ほど」という。
測定機と産業応用
加工後の形状を確認する測定機も重要で、山形氏は「パナソニックの『UA3P』という製品が、ほぼ世界標準になっている」と語る。超精密加工は産業界では非球面レンズの量産に活用され、スマートフォンのカメラ用レンズもこの技術で作られる。スマホレンズの生産は中国が大きなシェアを占めるが、山形氏は「中国でも多くが日本製でしょう」と推測している。



