Anthropic、物理機器をAIが制御する共通規格MHSをテスト公開 成功確率99.3%
Anthropicが物理機器制御の共通規格MHSを公開

米Anthropicは8月27日、AIエージェントが実験室やロボットアーム、分注機などの物理機器を安全に操作するための共通仕様「Model Hardware Standard(MHS)」をテスト公開した。当面は科学研究のロボと先端製造業の一部に限って提供し、安全評価と運用の指針を定めた上でオープンソース化する方針だ。

同社が物理世界に本格的に乗り込む最初の取り組みとなる。開発は米ハワード・ヒューズ医学研究所(HHMI)のジャネリア・リサーチ・キャンパスとの共同事業から始まった。

数カ月の作業を数分に短縮、MHSが解き明かす物理操作の標準化

ロボや工場が機器を接続して立ち上げるには、通常数週間から数カ月かかる。大半の機器は互いに通信せず、専門家が個別に適合コードを書く必要があるためだ。Anthropicは、MHSがこの作業を数時間から数分に縮めるとしている。

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仕組みの核となるのは、AIと機器をつなぐ「共通の約束プログラム」(ドライバ)だ。機種ごとにバラバラだった操作方法を「状態を確認する」(読む)「設定を変える」(書く)という単純な命令に統一。ネットワークにつながるだけで、AIと機器が自動的にお互いを見つけ合い、連絡できるようになる。

ロボットアームの重量や安全上の上限値など、これまで手のマニュアルや担当者の頭の中にしかなかった情報も、自然言語のタグとして書き込めるようにした。エージェントはそこから自動生成される参照ファイルを読むだけで、初めて触れる機器の扱い方が分かるという。制御経路は、AIと外部システムをつなぐ規格MCP、コマンドライン、コードファイルの3つだ。AIが万一誤動作しても事故を防げるよう、AIよりも下位にある「機器の制御プログラム」(ドライバ層)側に強制的なストッパー(安全制限)を設けている。

MHSはモデルに依存せず、プログラム制御できるインタフェースを持つ機器なら何でも使えるという。MCPなどの標準プロトコル経由であれば、Claude以外のエージェントからも呼び出せる。Anthropic技術スタッフのアレク・ケメニー氏はBloombergの取材に対し「MCPがソフトウェアに対して果たした役割を、MHSはハードウェアの世界で果たす」と語った。

専門家4人の作業を6秒に凝縮、量子計算や製薬現場で示した成果

先行事例の成果は具体的だ。米量子コンピューター企業QuEraは、量子ビットの操作に使うレーザーの周波数決定(ロック)の復旧をClaudeに任せた。従来は専門家4人が数カ月かけて書いた自動化スクリプトで、成功率58%、1回あたり約150秒。人間が手作業でやれば5〜10分かかる。

ところがClaudeを4つの役割に分け、仮説の提案、スクリプトの修正、実機での実行、ログの分析を一晩中無人で数百回繰り返させたところ、朝には約6秒まで短縮された。

完成したスクリプトを700回の繰り返し実験にかけると695回成功し、成功率は99.3%。12箇所の微調整が必要な繊細な設定作業でも、AIは専門家が調整した数値よりズレ(誤差)を10分の1以下に低減。19時間の連続運転中、一度もエラーを起こさなかった。専門家の設定では1時間に約1.6回外れていた。

米カーネギーメロン大学は、薬の効き目を調べるために薬剤を段階的に薄めていく製薬の基礎実験に導入した。分注機、プレートリーダー、ロボットアーム、監視カメラが3台のPCにまたがり、それぞれ互換性のないインタフェースで動く構成だったが、ドライバの新規開発から実験完了まで約8時間。ベンダーに依頼すれば数週間かかる作業だった。

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実験では、AIが1回目のデータ精度が不十分だと自ら判断。人の指示を待たずに薬の濃度を変え、容器をセットし直して再実行し、正常なデータを導き出した。また、容器の置き忘れや異常停止といったトラブルも察知し、機器が誤動作する前にすべて自動停止させた。

「連」トラブルに見える物理の壁、大手が相次ぎ支持する規格の未来

一方で限界も明確に示された。米バイオ医薬大手Genentechはタンパク質定量法の自動化に使ったが、粘性の高い試料で連が生じた際、Claudeは同じ場所で条件を変えて再試行し、かえって連を増やした。

人間が「エラーの原因がソフトではなく物理現象だ」と教えて、初めて対処できるようになった。Anthropicも発表文で、言語モデルは物理世界をテキストと画像から学んでいるため、空間認識や物理的な推論には限界があり、専門家の関与が必要だと認めている。PCやネットワークからプログラムで操作できない(外部連絡の口がない)旧式の機器には対応していない。

機器メーカー側の対応も進む。米Amazon Web Services(AWS)がロボット連携ライブラリ「Strands Robots」で対応するほか、韓国のロボット大手Doosan Robotics、デンマークの協働ロボット大手Universal Robots、スイスのラボ機器大手Tecan、独バイオ試薬大手QIAGEN、米理化学機器大手Danaherなどが検証や実装を表明した。

米AI開発基盤Hugging Faceはロボット向けライブラリLeRobotに、英Raspberry Piは自社製品群にMHS対応を組み込む。

Anthropicは2024年にMCPをオープンソースとして公開し、業界標準の座を得た。同じ手法をハードウェアで再現しようとしている。参加希望は専用サイトで受け付けているという。