KDDIは2026年9月2日、山口県と地域課題の解決と持続可能な地域社会の実現を目指す包括連携協定を締結した。石川県、徳島県、滋賀県に続く4県目の締結となる。
衛星通信所の歴史を生かした先端産業振興
山口県はKDDIと縁が深い。松田浩路社長の出身地であることに加え、前身の国際電信電話(KDD)の時代から衛星通信所が開設され、1979年には世界初の南極からの衛星伝送を担うなど、日本の国際通信を支える拠点として活用されてきた。
今回の協定では、こうしたポテンシャルを生かし、KDDIの宇宙通信やAIなどの技術やリソースを取り入れることで、先端技術を活用した産業振興に取り組む。地域のデジタル化を超えた取り組みは従来の協定にないものだ。
共通技術と地域ニーズのカスタマイズ
一方で、活用する技術やリソースは他の協定と共通する部分が多い。山口県内にドローンの発着信ポートを設置し、平時・有事に活用する取り組みや、人流データを活用した観光振興なども進められる。
松田氏は、全国一律の大量生産・効率化は大事であるものの、サービスを届けるには地域に合わせたカスタマイズが必要との考えを示す。4県とも抱える課題が異なるため、求める要素も異なるからだ。
KDDIは共通した技術やデータを用いながらも、各地域で実際に活用する際はニーズに合った形に落とし込むことに力を入れている。重要なのは、各地域でデジタル化を推し進める人材だ。
松田氏は「効率化を考えれば東京から進めてもいいが、何かあった時に地名も土地勘も分からない人がいて、何ができるんだと思った」と説明。地域に深く入り込む人材の重要性を強調する。また、会社への帰属意識や愛着に目覚めた中堅社員を送り込み、大きな裁量を持たせた方が活躍すると考えている。松田氏自身もKDD入社当初、ゆかりのない茨城県へ赴任した経験があり、社員が地域に向き合って経験を積むことが大きな成果を生むと見ている。
横展開とユースケース開拓の課題
KDDIは民間企業であり、売上を上げなければサービスを継続的に提供できない。そのためには横展開、つまりより多くの自治体と協定を結び、ドローンや衛星通信、人流データなどの活用を広げることが重要だ。
課題となるのは、まだ協定を結んでいない自治体に価値をアピールして興味を持ってもらうことだ。これまでどちらかといえば各自治体の首長による熱心なラブコールが協定に結び付いたケースが多かったが、47都道府県の首長全てが強い関心を示すとは限らず、首長側の対応を待つだけでは拡大が進まない。
松田氏は「パッケージの実績が大事」と答える。地域によってニーズが異なる多くの自治体にメリットを伝えるには、より多くのユースケース開拓が求められるだろう。将来的には一連の取り組みでビジネスを成立させる必要があるだけに、マネタイズにつながる平時のユースケース開拓が重要になる。
松田氏は本業の通信事業を例に挙げ、「モバイルのネットワークも(ユースケースを)そこまで考えて(基地局を)打たないが、ある程度打ってトラフィックを吸収し、顧客が喜ぶとマネタイズするというモデルができている」と回答。ドローンなどの新しい設備も、1つだけでビジネスにつなげるのは難しいが、「県民の暮らしに役に立っている実績を作り、需要は後から付いてくる」との考えを示し、環境整備を先に進めながら先行投資でユースケース開拓を進めている。
石川県との協定から約2年が経過し、ドローンを実際の災害対応に活用するケースも出てきている。山口県との協定でも、より多くのユースケース開拓を進めて次の自治体との協定締結につなげられるかが、今後を占う上で重要になるだろう。



