トヨタ自動車は、水素を燃料とするエンジン車の実用化に向けた開発を加速している。同社は2021年からスーパー耐久シリーズに水素エンジン車を投入し、2023年にはカローラクロスをベースにした試作車を公開。2024年には量産化に向けた技術検証を進めている。
水素エンジンの仕組みと利点
水素エンジンは、水素を燃焼させてピストンを動かす従来の内燃機関と同様の仕組みを持つ。燃料に水素を使うことで、走行時に二酸化炭素(CO2)を排出しない。ただし、燃焼時に微量の窒素酸化物(NOx)が発生するため、後処理システムが必要となる。トヨタはこのNOx低減技術も同時に開発している。
水素エンジンの最大の利点は、既存のエンジン技術や生産設備を活用できる点だ。トヨタの技術担当者は「エンジン部品の多くはガソリンエンジンと共通化できるため、開発コストを抑えられる」と説明する。また、水素エンジン車は燃料電池車(FCV)に比べてシステムが単純で、出力密度が高いという特徴がある。
実用化への3つの課題
しかし、水素エンジン車の普及にはいくつかの壁がある。第一に、水素の製造コストだ。現在、水素の価格はガソリンや電気に比べて高く、1kgあたり約1000円(ステーション価格)と、ガソリン換算でリッターあたり約300円に相当する。トヨタはグリーン水素の普及によるコスト低減を期待しているが、実現には時間がかかる。
第二に、水素ステーションの整備不足。日本全国で約170カ所(2024年時点)と、ガソリンスタンドの3万カ所に比べて圧倒的に少ない。特に地方部ではステーションがほとんどなく、航続距離に不安が残る。トヨタは「水素ステーションの整備には官民連携が不可欠」とし、政府の補助金拡充を求めている。
第三に、エンジン自体の耐久性と信頼性。水素は燃焼速度が速く、エンジン内部の温度が高くなりやすいため、部品の劣化が早まる可能性がある。トヨタはレースでの過酷な走行を通じて耐久性を検証しており、2023年のスーパー耐久では完走を達成している。
競合技術との比較
水素エンジン車は、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)と競合する。EVは航続距離や充電インフラの課題があるが、急速に普及が進んでいる。一方、水素エンジン車はエンジン音や振動が残るため、自動車ファンからの支持を得やすい。トヨタは「カーボンニュートラルに向けて、複数の選択肢を用意する必要がある」とし、EVと水素エンジンの両方を開発する方針だ。
また、欧州では合成燃料(e-fuel)の研究も進んでおり、2035年以降も内燃機関の新車販売を認める方向で議論が行われている。トヨタは水素エンジンに加え、e-fuel対応エンジンも開発中だ。
今後の展望
トヨタは2025年までに水素エンジン車の市販化を目指すとしているが、具体的な発売時期や価格は未定だ。同社の幹部は「まずは商用車や特殊車両から導入し、徐々に乗用車に広げたい」と語る。水素エンジン車の実用化は、技術的な課題に加えて、水素インフラの整備やコスト低減が鍵を握る。
政府も水素基本戦略を策定し、2030年までに水素供給量を300万トンに増やす目標を掲げている。トヨタの挑戦は、日本の水素社会実現の試金石となるだろう。



