EV(電気自動車)の普及が世界的に加速する中、日本企業の半導体戦略が大きな転換点を迎えている。従来のガソリン車向け半導体から、EVに不可欠なパワー半導体やAI処理向け先端半導体への需要シフトが急速に進んでおり、日本企業の対応が問われている。
EVシフトがもたらす半導体需要の構造変化
国際エネルギー機関(IEA)の報告によると、2023年の世界のEV販売台数は前年比35%増の約1400万台に達し、新車販売に占めるEVの割合は18%に上昇した。この急拡大に伴い、1台あたりの半導体搭載数量も増加。従来のガソリン車では1台あたり約900個の半導体が使われていたのに対し、EVでは約1500個に増えるとされる。
特に、電力変換を担うパワー半導体の需要が急増。EVの駆動用モーターを制御するインバーターや、バッテリーの充放電を管理するDC-DCコンバーターなどに搭載され、車両の航続距離や充電時間に直結する。さらに、自動運転技術の進展に伴い、カメラやレーダー、LiDARなどのセンサーから得られるデータを処理するAI半導体の需要も拡大している。
日本企業の強みと課題
日本は長年、自動車向け半導体で世界をリードしてきた。ルネサスエレクトロニクスは車載マイコンで世界シェア約30%を占め、デンソーや三菱電機もパワー半導体で強みを持つ。しかし、EVシフトが加速する中、日本企業の対応の遅れが指摘されている。
特に、次世代パワー半導体であるSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)の分野では、欧米企業が先行。SiCでは独インフィニオンテクノロジーズや米ウルフスピードが市場を席巻し、GaNではカナダのGaN Systemsや米ナビタスセミコンダクターが台頭している。日本勢ではロームがSiCで存在感を示すものの、市場シェアは10%程度にとどまる。
また、AI半導体の分野では、米エヌビディアが自動運転向けプラットフォーム「NVIDIA DRIVE」で圧倒的な地位を築いており、日本企業のシェアは限定的だ。トヨタ自動車や日産自動車はエヌビディアと協業しているが、自社開発の動きは鈍い。
政府の半導体戦略と産学連携の動き
日本政府は2021年に「半導体戦略」を策定し、先端半導体の国内生産基盤強化に乗り出した。台湾のTSMCを熊本県に誘致し、2024年に工場の稼働を開始。さらに、2023年にはラピダスを設立し、北海道千歳市に2027年の量産開始を目指す最先端半導体工場の建設を進めている。
自動車向けでは、トヨタ自動車とデンソーがルネサスに出資し、車載半導体の安定調達と共同開発を強化。また、日産自動車はルネサスと協業し、EV向けパワー半導体の効率向上に取り組んでいる。さらに、大学や研究機関では、SiCやGaNの次世代材料の研究が活発化しており、東北大学や名古屋大学が産学連携プロジェクトを推進している。
今後の展望と日本企業の生き残り戦略
半導体市場は2024年に6000億ドル規模に達すると予測され、車載半導体はその約15%を占める。EVシフトが進む中、日本企業が競争力を維持するには、従来のマイコンやパワー半導体の強みを活かしつつ、先端半導体への投資を加速する必要がある。
専門家は、日本企業が得意とする高信頼性・高品質の車載半導体を武器に、差別化を図るべきだと指摘する。自動運転やコネクテッドカー向けのセキュリティ半導体、センサーフュージョン向けの専用半導体など、ニッチな分野での競争優位性を築くことが重要だ。
また、政府の支援を受けながら、産学連携による人材育成や研究開発の促進も不可欠。半導体業界では、台湾や韓国、米国に比べて日本の投資額は依然として少なく、官民一体となった取り組みが求められる。
EVシフトの加速は、日本企業にとって半導体戦略の岐路となっている。従来の延長線上の戦略ではなく、大胆な構造転換と投資が求められる局面だ。



