はだしのような感覚で履ける靴「ベアフットシューズ」への注目が高まっている。指を広げやすく、靴底が薄くて地面を直接踏むような履き心地が特徴で、本格的なアスリートだけでなく、健康を意識する中高年層にも「靴の機能に頼らない歩き方が新鮮」と受け入れられている。普段の生活で使うことの少ない筋肉を鍛える効果も期待される。
1センチに満たない薄い靴底
今年の夏、ベアフットシューズを扱う兵庫県芦屋市のアウトドア用品店「スカイ・ハイ・マウンテン・ワークス」を訪ねた。足首まで覆うブーツからサンダルまで形は様々。用途は山道を走るトレイルランなどのスポーツから日常使いまで幅広い。▽指を広げられる▽かかととつま先の高低差がない▽靴底が薄い――が共通する主な特徴だ。
とりわけ靴底の薄さが目を引き、1センチに満たない品も多い。試着すると窮屈さがなく、床の凹凸が足裏に伝わってきた。その分、着地のショックを和らげる効果は最小限に感じた。同店オーナーの北野拓也さん(54)によると、勢いよくかかとから着地するとけがをする恐れがあり、足裏を地面に沿わせるように歩くことがポイントだという。
「足に意識が集中する」
ベアフットシューズの世界市場は成長が続いている。市場調査会社の「グローバルインフォメーション」(神奈川)と「360iリサーチ」(インド)によると、2025年の市場規模は4億5200万ドルで15年の約2倍。32年には8億2600万ドルになると見込まれる。
人気の理由は、歩き方を変える効果にある。北野さんは「はだしに近い履き心地によって、足に意識が集中する」と話す。来店した同市の会社員(56)は、趣味の山歩きで捻挫をすることがあったが、同店オリジナルのサンダルを履くようになって故障が減ったといい、「靴の機能に頼らずに足を動かすようになった」と語る。
米国のブランド「ゼロシューズ」の輸入代理店「ケンコー社」(大阪)によると、主なユーザーは健康意識の高い40~60歳代の男女で、日常の通勤などでも使用するという。好調な販売を背景に25年度の卸先は約250店と、輸入を始めた15年度の5倍に増えた。
時間をかけて慣れる必要
歩きやすさや衝撃吸収などの機能を減らすことで、普段、鍛える機会の少ない筋肉の強化も期待される。足の機能改善を支援する理学療法士・海津陽一さんによると、高機能なシューズは効率的に歩けるように足の筋肉への負担を抑えるのとは対照的に、ベアフットシューズでは足の内側の筋肉「内在筋」を積極的に使うようになるという。
利点のあるベアフットシューズだが、一般的なシューズと同じ感覚で履くのは控えたい。慣れないうちから走ったり、高負荷の運動をしたりすると足を痛める恐れもある。靴と足の関係に詳しいさいたま市立病院の小久保哲郎・整形外科部長は「足への負担に注意しながら、時間をかけて慣れる必要がある。足に疾患があり、筋力が弱いなど不安のある人は医療機関に相談してほしい」と呼びかける。
ベアフットシューズが初めに注目されたきっかけは2010年発行の書籍「BORN TO RUN 走るために生まれた」(クリストファー・マクドゥーガル著、近藤隆文訳、NHK出版)だった。著者は足の故障に悩む米国人ランナー。薄く簡素な靴で走ると痛みが消えた経験から、多機能な靴が筋力を弱め、痛みや故障を生む可能性を指摘。この主張がランナーの関心を集め、ベアフットシューズへの支持につながった。
しかし、ブームは長く続かなかった。輸入代理店「ストライド」(東京)によると、当時は使い方の知識がないまま着用して、けがをする人もいたという。その一方で、厚い靴底が衝撃を吸収し、推進力を生む高機能シューズが定着した。コロナ禍を経た健康志向の高まりの中で、ベアフットシューズが見直され、再び脚光を浴びるようになった。ファッション性を意識した製品も登場し、スポーツ以外にも活躍の場が広がった。英国の「ビボベアフット」は、洗練されたデザインと環境負荷への配慮がポイントで、主力商品の「プライマスライト4」はシンプルな配色で服に合わせやすく、素材にリサイクルの合成繊維を使う。