宿泊予約サービス大手のAirbnb(エアビーアンドビー)が、これまでのインバウンド需要頼みから戦略を転換し、国内市場の開拓に本格的に乗り出す。2026年2月、Uber Eats Japanを2年連続の黒字化に導いた実績を持つ中川慎太郎氏がAirbnb Japanの代表取締役に就任した。同氏が照準を定めるのは、訪日客需要の先にある、26兆円規模の「日本国内の旅行・日帰り消費市場」だ。
26兆円市場への転換 インバウンド偏重からの脱却
中川氏は、ホテル業界との消耗戦を避け、イベント連携やサービス拡張によって日本人の生活に新たな滞在習慣を根付かせようとしている。同氏が描く「巨大プラットフォーム化」の勝算に注目が集まる。
日本はAirbnbのグローバルビジネスにおいて最も成長率の高い国の一つとして位置付けられている。直近の日本国内の予約数は前年比127%で、市場拡大が継続している。背景には2025年の国内旅行消費額が26兆7845億円という、非常に大きな市場が存在することがある。経済的成熟度と可処分時間の高さから、グローバル本社も重要市場として注視している。単なる訪日客の受け入れに留まらず、国内消費市場としての掘り起こしが評価されている格好だ。
新規ユーザー獲得戦略 若年層と大都市圏から展開
Airbnb Japanは、これまでのインバウンド需要の獲得から戦略をシフトし、日本国内で初めてAirbnbを利用する新規ユーザーの獲得に注力している。具体的には、比較的若年層かつ大都市圏に住む層を最初の核としながら、全国展開を目指す構えだ。都市部での早期採用層を突破口とし、そこで得た知見を地方展開の設計に反映させていく流れを描いている。
日本市場では、ユーザーの行動様式を変えるハードルが高く、マーケティング投資による認知獲得や利用方法の説明、アプリのUI/UX改善など、他国と比べて3〜4倍の労力がかかる傾向がある。また、日本人ユーザーのニーズはインバウンド利用者のそれとは大きく異なるため、国内旅行に寄り添ったアプリやサービス開発が必要となる。この課題に対応するため、複数年にわたる継続的な投資と、社内外への粘り強い説得活動が重要な役割を果たす。単年度の成果を急がず、長い目で認知を積み上げる姿勢が求められている。
「単なる宿泊予約」からの脱却 イベント連携で接点拡大
Airbnbは、コンサートやスポーツ試合などのイベント開催に着目している。イベント時には宿泊ニーズが瞬間的に高まり、宿泊需要と供給のバランスが短期的に崩れるため、ホームシェアリングサービスが活躍する絶好の機会となる。具体例として、神戸大とのスポンサーシップが発表されており、スポーツファンが試合観戦のために旅をする習慣とAirbnbの滞在スタイルは本質的に合致すると考えられている。
2025年5月には宿泊に加えて「体験」と「サービス」の2つのカテゴリを新たに開設した。2026年の夏季リリースでは、空港送迎やレンタカー、食品事前購入、荷物預かりサービスなどを拡充し、宿泊予約サービスから「旅行全体をサポートするプラットフォーム」へ進化させる計画だ。宿泊予約という一点の接点を、旅程全体を通じた複数の接点へと広げる狙いがある。
ホテル業界とは戦わない 「社会インフラ」目指す
Airbnbはホテル業界と直接競合するのではなく、むしろ一緒にホームシェアリングという新しい習慣を根付かせることを重視している。ユーザーが用途に応じて使い分けられる選択肢を増やすことが目標であり、ホテルでの利便性とホームシェアリングでの体験の豊かさは補完的な関係にあると考えている。
経営陣が目指すのは、Airbnbという言葉を日本で当たり前に使われる言葉として定着させることだ。旅行計画や出張入り、空き家活用を検討する際に、自然とAirbnbが最初の選択肢として思い浮かぶようになることが目標である。ホスト、ゲスト、地域コミュニティの三者が信頼し合える環境を作ることで、新しい社会インフラとして受け入れられることを目指している。



