日本車メーカー、EVシフトで岐路に
世界的な電気自動車(EV)への移行が加速する中、日本の自動車メーカーはかつてない転換点を迎えている。従来の内燃機関車(ICE)からEVへの切り替えは、部品点数が約3分の1に減少し、サプライチェーン全体の再構築を迫るものだ。特に、エンジンやトランスミッションなど従来の基幹部品が不要となる一方で、バッテリーやモーター、インバーターといった新たな要素が重要性を増している。
業界関係者によると、EVの駆動系部品はICE車に比べて部品点数が約40%少なく、製造工程も簡略化される。しかし、バッテリーの調達コストが車両価格の約3割を占めるため、いかに安定的かつ低コストで電池を確保するかが競争力の鍵となる。トヨタ自動車は2026年までに次世代電池を搭載したEVを投入し、航続距離を現行比で50%以上向上させる計画だ。一方、日産自動車は独自の全固体電池の量産を2028年度に目指しており、これが実現すれば充電時間を従来の3分の1に短縮できる可能性がある。
部品調達の課題と新たな連携
EVシフトに伴い、部品メーカーも大きな変革を迫られている。エンジン部品を主力としてきた企業は、モーターやインバーター関連へのシフトを余儀なくされる。デンソーは2030年までにEV向け部品の売上高を現在の3倍に引き上げる目標を掲げる。また、電池材料では、三菱ケミカルグループがリチウムイオン電池の電解液で世界シェア約2割を占め、需要拡大に対応するため生産能力を2025年までに2倍にする方針だ。
しかし、調達リスクも顕在化している。リチウムやコバルトなどのレアメタルは特定国に偏在しており、地政学的リスクが価格変動を引き起こす。日本政府は経済安全保障の観点から、蓄電池の国内生産基盤強化に乗り出し、2023年度補正予算で約3300億円を計上した。これにより、トヨタとパナソニックの合弁会社であるプライムプラネットエナジー&ソリューションズ(PPES)などが補助金を受け、生産能力拡大を進めている。
各社の戦略と市場の反応
トヨタは、ハイブリッド車(HV)で培った技術をEVにも応用し、2026年までにEVの世界販売を150万台に引き上げる計画だ。しかし、2023年のEV販売実績は約10万台にとどまり、目標達成には課題が残る。日産は、2026年度までにEV販売比率を40%に引き上げる目標を掲げ、新型EV「アリア」の生産を拡大中だ。ホンダは、2024年から北米でEV専用工場を稼働させ、2030年までにEV販売比率を40%とする方針を示している。
市場では、中国のBYDや米テスラが先行する中、日本車メーカーの競争力に疑問の声も上がる。調査会社マークラインズのデータによると、2023年の世界EV販売台数は約950万台で、うち日本車メーカーのシェアは約5%に過ぎない。特に中国市場では、現地メーカーの台頭により日本車の販売が低迷している。
今後の展望と政策の影響
政府は、2035年までに新車販売をすべて電動車(EV、HV、プラグインハイブリッド車、燃料電池車)とする目標を掲げている。これに伴い、充電インフラの整備も急務だ。現在、国内の急速充電器は約3万基と、欧州の約30万基に比べて大幅に少ない。経産省は、2030年までに急速充電器を15万基に増やす計画で、補助金制度を拡充している。
また、EVシフトは雇用にも影響を与える。エンジン関連の部品メーカーでは、2030年までに約10万人の雇用が減少するとの試算がある。一方で、電池やモーター関連では新たな雇用が生まれる見通しで、労働者の再教育が課題となる。日本自動車工業会の豊田章男会長は、「EV一辺倒ではなく、多様な選択肢を提供することが重要」と述べ、政府の目標に慎重な姿勢を示している。



