海外送金が数秒に、売掛金の未回収リスクもゼロに 金融インフラのオンチェーン化が加速
海外送金が数秒に、売掛金リスクもゼロに 金融インフラ進化

海外送金に数日を要し、到着時期が不明な着金を待ちわびる。取引リスクに備えて銀行口座には巨額の運転資金が張り付けられ、毎月〆になれば経理担当者が膨大な請求書と売掛金を手作業で突き合わせる。そんな企業財務とバックオフィスを長年悩ませてきた「決済の負担」が、いま変わろうとしている。

円やドルに連動するステーブルコインや預金のデジタル化が実用化へ

円やドルに連動する「ステーブルコイン」や預金のデジタル化(トークン化預金)に留まらず、国債などの証券取引までを24時間365日リアルタイムで処理する「金融インフラのオンチェーン化」が、ついに実用化へ動き出した。三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行の3大メガバンクが、2026年度中の実取引を見据えて一斉に動いている状況だ。その背景にあるのは、商流・企業間決済・資金繰りといった「実物経済」そのものを効率化させられるという明確な勝算だ。「商品が届いたら自動で決済する」という契約のプログラム化(プログラマビリティ)が実現すれば、煩雑な消し込み事項や未回収リスクは限りなくゼロへ近づく。

「強い経済の実現には、金融インフラの高度化が不可欠だ」——。7月に都内で開催されたWeb3カンファレンス「WebX 2026」の壇上で、加藤さつき財務・金融担当大臣が明かした政策の次なる一手とは何か。日本企業の資金効率とバックオフィス戦略を変える金融インフラ進化の展望に迫る。

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金融庁がPIPを設置、3大メガバンクが「預金のトークン化」を急ぐワケ

金融庁は2025年11月、金融分野の実証実験を支援する枠組みである「FinTech実証実験ハブ」の中に、決済分野に特化した「決済高度化プロジェクト」(PIP)を設けた。これまで(1)円やドルなどの法定通貨に価値を連動させたステーブルコインの3大メガバンクによる共同発行、(2)証券決済の高度化、(3)トークン化預金を用いた銀行間決済の3件を支援案件に決めている。

民間企業での取り組みもすでに始まっている。電子決済手段の発行などを手掛けるJPYC(東京都千代田区)は2025年10月、日本円と1対1で交換できる国内初の円建てステーブルコイン「JPYC」を発行した。SBIグループも2026年6月「信託型」としては国内初となる「JPYSC」を発行している。信託型は、一般的なデジタル決済(資金移動業型)に適用される「1回につき最大100万円まで」という送金・保有の上限規制がない。そのため、少額単位の資金が動く企業間の高額取引にも、そのまま活用できるのが大きな強みだ。

金融庁はこれまで、ブロックチェーン技術を活用したステーブルコインなどによる決済の実証実験を支援してきた。政府は、次に何をブロックチェーンに移そうとしているのか。加藤大臣は2025年のWebX 2025にも、自民党金融調査会長として登壇している。米国は同年7月、ドル建てステーブルコインの発行体に準備資産の保有などを義務付ける「GENIUS法」を成立させた。加藤大臣は、米ステーブルコイン大手のCircle Internet Groupの経営陣らと日米の規制動向を議論したという。

同社が発行する「USDC」は、時価総額で世界2位のドル建てステーブルコインだ。加藤大臣は「この1年で、日本でも金融取引をブロックチェーン上で処理する動きが大きく進んだ」と振り返る。

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銀行預金でも動きが出ている「トークン化預金」とは

「トークン化預金」とは、既存の銀行預金をデジタル上のデータ(トークン)に置き換え、異なる銀行間でも手数料を抑えて一瞬で送金・決済できるようにする仕組みだ。IIJグループで、トークン化預金の基盤を手掛けるディーカレットDCP(東京都千代田区)は、銀行や自治体、事業会社が参加するデジタル通貨フォーラムの事務局を務める。同フォーラムは2022年度、福岡県会津若松市の地域通貨「会津コイン」について、付与する補助と地域のスーパーマーケットとの精算を、トークン化預金「DCJPY」の移転によって処理する実証実験を実施した。

ゆうちょ銀行も2025年9月、DCJPYを使ったトークン化預金の取り扱いを「2026年度中に始める方向で検討している」と発表。加藤大臣は「トークン化預金の発行(取り扱い)に向けて、準備を進める金融機関が相次いでいる」と説明した。

各国の中央銀行も預金をトークンにし、通貨を受け渡す実証に加わっている

各国の中央銀行も、預金をトークンにし、通貨をまたいで受け渡す実証に加わっている。国際決済銀行(BIS)と国際金融協会(IIF)が主導する「Project Agora」(プロジェクト・アゴラ)は、中央銀行に置かれた当座預金と、銀行が持つ民間の預金を「統合台帳」と呼ぶ一つの基盤の上で扱う仕組みを検証している。

日本銀行を含む7つの中央銀行と、40以上の民間金融機関が参加。日本からは三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、SBI新生銀行が加わった。国際決済銀行は2026年5月27日、この仕組みを試作した上での検証結果を公表した。複数の通貨をまたぐ送金でも、支払いと受け取りを一度に成立できることを確認したという。数日かかっていた送金が数秒で済み、その間に資金が途中の銀行で拘束されることもなくなる。

これにより企業は、海外取引に備えて口座へ預けさせていた予備資金(運転資本)を最小限に抑え、成長投資へと速やかに回せるようになるのだ。資金の流動性を高める財務戦略上のインパクトは大きい。今後は実際の資金を使った実験に移るという。

ブロックチェーンで扱えるのは、決済手段だけではない。株式や債券など、金融資産そのものの取引も対象になる。取引の記録から権利の移転までを、改ざんができない分散型デジタル台帳(ブロックチェーン)上で一元処理することを、金融業界では「オンチェーン化」と呼ぶ。加藤大臣が特に期待を寄せるのは、国債のオンチェーン化だ。

「国債の権利移転をデジタル化(オンチェーン化)することによって、国債を担保に現金を借り入れる『レポ取引』などの金融取引が、土日曜日を問わず24時間365日、速やかに完結できるようになる」(加藤大臣)

さらに加藤大臣は「国債をオンチェーン化する実証実験が、大手金融機関の連携によって始まっている」と説明した。みずほフィナンシャルグループ、野村ホールディングス、日本証券クリアリング機構、ブロックチェーン基盤を開発する米デジタル・アセット・ホールディングスは2026年4月20日、日本国債を担保にした取引をブロックチェーン上で処理する実証実験を始めている。この4社は担保管理の事務コストを減らし、国内外の機関投資家による国債の利活用を広げる見通しだ。

26年度中に実取引へ 商流・物流・決済の連携が企業実務を変える

金融庁は、こうした取り組みをPIPで支援しており、これまでに3件を採択していることは前記の通りだ。1件目は、三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行が三菱UFJ信託銀行と組み、信託型のステーブルコインを共同で発行する実証だ。第1弾として、三菱商事が国内と海外の拠点間で決済できるかを、三菱UFJ信託銀行系でデジタル資産の発行基盤を手掛けるProgmat(プログマ、東京都千代田)のシステムを使って検証した。

3銀行は2026年6月に運営やガバナンスを共同で検討する協議会を設け、2026年度中の実取引開始を目指すと発表している。請求データと代金決済がリアルタイムで連動すれば、月次の請求書のやりとりや、手作業で行っていた「売掛金の消込(入金確認)作業」は完全に自動化される。経理・財務部署の事務負担が個別に減るだけでなく、条件達成と同時に自動送金される仕組みによって、企業間の代金未払いリスクそのものを、システム構造として排除できるメリットは極めて大きい。

2件目は、ディーカレットDCP、GMOあおぞらネット銀行、アビームコンサルティングによる銀行間決済の実証だ。異なる銀行の口座同士でトークン化預金を送る際に、銀行間の決済をどう処理するかを、銀行間で開いた預金口座を使う方法とステーブルコインを使う方法の両方で検証する。3件目は証券決済の高度化だ。野村證券、大和証券と3大メガバンクの持ち株会社が参加し、国債や上場株式、投資信託、社債について、証券保管振替機構の振替口座簿の記録とブロックチェーン上のデータを同期させ、権利を移す仕組みを検証する。

加藤大臣は、高市政権が掲げる目標にも触れた。「強い経済、強くて豊かな日本の実現に向けては、金融機能の強化が欠かせない。その金融戦略の根の一つが、金融システムを支えるインフラの整備だ」

ブロックチェーンの最大の特長は、あらかじめ「商品が届いたら自動で代金を支払う」といった契約・決済条件のプログラムを資金そのものに組み込める点(プログラマビリティ機能)にある。「ブロックチェーンのプログラマビリティという特性を生かし、物流、商流、決済が一体的に連携することで、決済が効率化されるだけでなく、経済全体の生産性が高まる可能性が広がっている」(加藤大臣)

加藤大臣は物流をその適例として挙げ、物流と商流と決済の一体化に対応するため、決済基盤の高度化に取り組む考えを示した。国・メガバンク・金融庁が一体となって進める「企業決済インフラの構造改革」は、物流や企業間取引、資金繰りに関連した日本企業のバックオフィスを変革するための「金融インフラ進化」だ。この新たな決済基盤を、いかに自社のビジネスプロセスへ組み込むかが、今後の企業競争力を左右することになる。