国内の定額制動画配信(SVOD)市場で、ディズニープラスはシェア8.4%の4位につける。GEM Partnersの調査(金額ベース)によると、首位Netflix(27.1%)やU-NEXT、Prime Videoといった上位勢の後塵を拝している。
だが、ウォルト・ディズニー・カンパニーが描くビジョンは、他社との「会員数の奪い合い」とは異なる地点にある。他社が獲得コストを削り合う中、同社が見据えるのは全く別のレースだ。
「独自のレース」とは何か
同社が目指すのは、ディズニープラスをサブスクリプション事業単体での売り上げで評価するのではなく、映画館やテーマパーク、グッズ、さらにはスポーツ配信までを横断する「ディズニーファンダム(ファンコミュニティ)のデジタルハブ」へ進化させることだ。
IPを軸にリアルとデジタルを回遊させて顧客生涯価値(LTV)を最大化する。経営陣が「独自のレース」と表現するこのアプローチは、SVODを「ディズニー経済圏全体への入り口」とする収益戦略に他ならない。
TBSホールディングスが100%出資して設立した映像コンテンツ制作会社「THE SEVEN」や、韓国「CJ ENM」傘下の動画配信サービス「TVING」とのパートナーシップ、競合SVODとのバンドル提供(セット販売)まで、自前主義に固執することなく、顧客接点を広げる真意はどこにあるのか。
シェア4位からの逆襲
前述した調査によると、2025年のSVODサービスの国内市場規模は前年比14.3%増の見込み6017億円となった。サービス別のシェアでは、Netflixが前年比5.6ポイント増の27.1%で、7年連続の首位を獲得。2位のU-NEXTが17.1%、3位のPrime Videoが12.1%と続いた。こうした中、ディズニープラスは前年比0.6ポイント減の8.4%となったものの、DAZNを抜いたことで前年の5位から4位に順位を上げている。
この結果についてサメコウスキー氏は、他社と比べてローンチしてから期間が短いことを認めた上で「私たちがディズニープラスで目指しているのは、自分たちのやるべきことに集中し、独自のレースを走ることです」と話す。他社とのしのぎを削るのではなく「ディズニーは独自の戦い方を選ぶ」という姿勢を強調した。他社と同じ土俵で加熱者数だけを追うのではなく、IPやテーマパーク、クルーズライン、ローカルコンテンツなどディズニー全体の資産を生かしながら、顧客との長期的な関係を築き、事業全体の価値を高めていくのだという。ディズニープラスはそのための入り口として位置付けている。「独自のレース」とは単なる差別化ではなく、ディズニー全体の収益性を重視した独自の経営戦略なのだ。
ディズニーのエコシステムの中核
サメコウスキー氏は「ディズニープラスを、グループ全体のエコシステムを結ぶデジタルの中核と位置付けている」と説明する。ディズニープラスの視聴画面を開けば、ディズニー、ピクサー、スター・ウォーズ、マーベル、そしてスポーツチャンネルのESPNまでが同じ場所に並ぶ。これは複数ブランドのコンテンツを寄せ集めたラインナップではない。新CEOのジョシュ・ダマーロ氏は、ディズニープラスを従来型のストリーミングサービスの枠を超えた「ディズニーファンのデジタルの中核」と位置付けている。サメコウスキー氏も「私たちの目標は、ディズニープラスをディズニーファンダムの目的地にすること」だと説明した。
もともとESPNは、ウォルト・ディズニー・カンパニーのグループの中でも独立した事業会社であり、本来はディズニーやピクサーとは別のブランドだ。異なる出自を持つブランド群を、あえて1つのアプリに集約している点にこそ、ディズニープラスの戦略が表れている。
このエコシステムの強さを裏付けるのが、劇場作品とディズニープラスのコンテンツを行き来するクロスメディア展開だ。「スター・ウォーズ」の実写オリジナルドラマ「マンダロリアン」シリーズが劇場版として公開された際には、ディズニープラスにおける同シリーズやスター・ウォーズ関連タイトルの視聴時間が大きく伸びた。逆に、もともと劇場作品として育ったマーベル作品(「アベンジャーズ」「アイアンマン」「キャプテン・アメリカ」など)は、ディズニープラスの複数シリーズへと形を変えて展開する。「トイ・ストーリー」も同様に、映画とディズニープラスの双方でIPの価値を伸ばしている作品の一つだ。一つのIPを異なるメディアで公開する構造は、単体のコンテンツ会社には真似しにくい。
もう一つの仕掛けが、ディズニープラスの会員特典にあるという。会員に対してテーマパークなどでの割引や、会員だからこそ得られる特別な体験を提供している。このようにディズニープラスは、ディズニー経済圏全体の顧客価値を引き上げるハブとして機能しているのだ。サメコウスキー氏は、この構造を『アナと雪の女王』を例に説明する。
「あなたが『アナと雪の女王』のファンなら、劇場でも見るでしょうし、ディズニープラスでも見るかもしれません。そして、本当のファンであれば、私たちのパークにある『アナと雪の女王』のアトラクションを体験するでしょう。さらに熱心なファンであれば、(毎年で、米アナハイムで開催している)私たちのファンイベント『D23』に行くでしょう。そこには何万人ものファンが集まります。好きなキャラクターに扮して、心から楽しんでいます」
劇場、配信、パーク、ファンイベントという接点を一本のIPで結び、ファンとの関係を段階的に深めていく。この体験全体を自社だけで設計・提供できる点こそが、ディズニーが持つ強みでもある。



