米調査会社Gartnerは2026年9月9日(現地時間)、AIが仕事の未来にもたらす「4つのシフト」に関する予測を発表した。この中で同社は、2029年までにAIによる置き換えを理由に解雇された従業員の30%が再雇用を必要とし、多くの場合そのコストは大幅に高くつくと予測している。
なぜ3割もの再雇用が必要になるのか
人員削減は、短期的には財務上の利益をもたらすはずだ。それなのに、なぜ削った人材を高いコストで呼び戻す事態に陥るのか。Gartnerによれば、人員削減が短期的な財務効果と引き換えに人材パイプライン(人材の供給源)を細らせ、組織に蓄積された知識を失わせるためだという。
世界的に労働力人口の伸びが鈍化あるいは減少に向かう中、必要な人材の獲得競争は厳しくなる。その結果、採用や研修、受け入れにかかるコストは最終的に増大するとGartnerは指摘する。
Gartnerアナリストの指摘
Gartnerのバイスプレジデントアナリスト、トリ・ポールマン氏は次のように述べる。
「経営陣とITリーダーが初期のAI時代を振り返るとき、最大の過ちは『業務の自動化こそが目的だ』と信じたことだったと気付くだろう。本来の機会は、労働力の増幅にあった。競争優位を手にするのは、役割を再構築し、ワークフローが従来の境界を越えられるようにすることでAIの価値が積み上がる組織を築いたCIO(最高情報責任者)と経営陣だ。それによって業務のスピードは高まり、無駄は減る」(ポールマン氏)
その上でポールマン氏は、コスト削減を優先する企業のリスクをこう指摘する。
「AIを主にコスト削減の道具として使う経営陣とITリーダーは、過度な削減を早過ぎる時期に実施するリスクを負う。AIが成熟を続ける中で、ビジネスモデルを更新し、新たな市場で競争する能力を養うからだ。そうではなく、AIで役割を再構築し、生産性の低い業務から新たな機会へと働き手を振り向ける『タレントリミックス』(人材の組み替え)戦略を策定すべきだ」(ポールマン氏)
最も効果的な組織は、あらゆるタスクを自動化し、あらゆる意思決定をAIに委ねようとする誘惑に抗う組織だという。同社の報告書「Hype Cycle for the Future of Work, 2026」によると、初期のAI投資は「幻滅期」(過度な期待が冷め、投資対効果が厳しく問われる段階)に入りつつある。この局面でCIOと経営陣が直面する問題はもはや技術ではなく、AIで人の知性や創造性、創意性を増幅することだとポールマン氏は指摘する。
CIOが備えるべき「4つのシフト」
仕事の未来を左右するとGartnerが位置付ける4つのシフトは次の通りだ。
- 人とAIの関係を通じて人の能力を広げる:AIが単なる道具から、人と協働する存在へと進化する中で、企業には説明責任を保ちながら人の能力を高める、より豊かな協働の形が求められる。従業員の判断力や創造性、リーダーシップ、意思決定を、置き換えるのではなく強化するためにAIを使う企業が成功する
- 「導入」で終わらず「適応」できる人材を育てる:技術変化の速さが、スキルや適応力の面で重大なギャップを生じさせている。企業には、学び続け、分野を越えて協働し、流動的な役割の中で力を発揮できる従業員が必要になる。従業員のAIリテラシーやスキル管理への投資と、経営陣自身のAI理解が求められる
- 文脈と判断、意味を深める:AIが業務プロセスに組み込まれるほど、文脈や人の判断、組織に蓄積された知識が失われるリスクが高まる。意思決定の質を高め、人による監視を維持し、業務を「どう実施するか」だけでなく「なぜそう実施するのか」を従業員が理解できる仕組みの設計が必要だ
- 価値が積み上がる基盤を築く:日常的なAIツールの導入に留まらず、AIのユースケースを重ねるたびに、前回より速く、安く、安全に実行できる条件を整えることが長期的な成功を左右する
Gartnerは各シフトを支えるテクノロジーとして、従業員デジタルツイン(従業員の知識や行動をデジタル空間に再現したモデル)や意思決定インテリジェンスプラットフォーム、ドメイン特化型の生成AIモデルなどを挙げている。
Gartnerは「2027年までに、AIによる生産性向上をコスト削減として取り込むことを優先する企業の75%は、その成果をイノベーションやシステム更新、従業員のスキル向上に積極的に再投資する競合に追い抜かれる」とも予測している。



