「私たちはすでに『戦時下』にいる――」。こう警鐘を鳴らすのは、サイバー防衛専門家の奥野史一氏だ。同氏によれば、現在、水面下で従来の「サイバー攻撃」とは次元の異なる「サイバー知能戦(Cyber Intelligence Warfare)」が繰り広げられているという。本稿では、奥野氏の著書『2025-2035 サイバー空間の地政学 「見えない戦場」の現在地と未来予測』から一部を抜粋・編集して紹介する。
1日あたり1.5件のペースで被害が明かされる現実
2025年、私たちは国際法上の「戦争」状態にあるわけではない。窓の外には平和な日常が広がっている。しかし、スマートフォン、PC、電力や通信の裏側では、止まらない攻防が続いている。それが「サイバー知能戦」だ。
その規模を示す数字がある。2025年の1年間に国内で公表されたセキュリティインシデントは559件。1日あたり1.5件のペースで、どこかの組織が被害を明かしていた計算になる。これはもはや「情報が漏れた」というレベルの話ではない。
「サイバー知能戦」と「サイバー攻撃」の違い
従来のサイバー攻撃は、情報を盗んだり金銭を奪ったりすることが目的だった。しかし「サイバー知能戦」は、敵の意思決定を先読みし、勝利できる判断を先に生み出す力を狙う。奥野氏は「知能とは『勝てる判断』を先に生み出す力」と定義する。
勝敗を分けるのはデータ量の多寡ではない。むしろ、データの「凝縮」と「蒸留」が鍵を握る。膨大な情報から本質を抽出し、それを基にした判断が勝負を決める。この新たな戦場では、企業や組織は従来のセキュリティ対策だけでは太刀打ちできない。
すでに始まっている「見えない戦場」
奥野氏は「2025年、私たちはすでに戦時下にいる」と強調する。サイバー知能戦は、国家レベルの攻撃から企業間の競争まで、あらゆる領域に浸透しつつある。企業はデータの保護だけでなく、データをどう活用し、どう判断を先取りするかが問われている。
この戦いの本質を理解しなければ、企業は気づかないうちに競争力を失うだろう。奥野氏の警鐘は、単なるサイバーセキュリティの枠を超え、経営戦略そのものの転換を迫るものだ。



