デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性は叫ばれ続けているが、形だけの残念なDX「がっかりDX」に陥っているケースは少なくない。特に人手不足が深刻な中小企業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、中小企業のDX支援に携わってきた郡司昇氏が解説する。
AIのPoC成功が「がっかりDX」になる理由
AIのPoC(概念実証)を実施し、プレスリリースを出して複数のメディアにも掲載され、社内では「AI活用事例が3件できた」と報告された——。こう聞くと、一見成果が上がっているように見える。しかし、商品の返品率は何ポイント下がったのか。作業時間は何時間減り、利益はいくら増えたのか。この問いに答えられないなら、AI導入はまだ経営成果につながっているとは言えない。PoCが失敗したとは限らないが、本番運用と利益への接続はこれからだ。
AIモデルの性能は急速に高まり、どの企業も最先端のモデルを利用できる。それでも成果に差がつくのは、AIに渡すデータと、AIを組み込む業務の設計が異なるからだ。
ウェイフェアに学ぶ「独自データ」の作り方
家電・ホーム用品を扱う米EC大手ウェイフェアは、商品登録や顧客対応の業務そのものから同社固有の「独自データ」を蓄積し、AI活用を経営成果につなげている。ウェイフェアの事例から、日本の中小企業が学べるAI導入のための点検手順を紹介する。
「当社にはPOSも会員データもある。月間○千万人のビッグデータだ」と考える中小企業は多いだろう。しかし、ID-POS(顧客情報が紐付いた購買データ)が示すのは「何が、いつ、何店で、いくらで、誰に売れたか」です。なぜその商品を選んだのか、ほかに何と迷ったのか、どのような制約があったのかまでは分からない。
商品マスターには品番、素材、成分などが載っている。ところが「狭い玄関を通せるか」「子どもがいる家庭に向くか」「既存の商品と併用できるか」といった用途までは、十分に構造化されていない。業務マニュアルにも同じ問題がある。標準手順は記載されていても、例外が起きた際に担当者が何を見て、なぜその対応を選んだのかは残りにくいからだ。
独自データの4要素とは
筆者は、中小企業にとっての「独自データ」を次のように捉えている。「自社の顧客接点と業務を通じて継続的に蓄積され、用途、条件、判断理由、結果まで結び付いた、競合が同じ時間とコストでは再現しにくいデータ」——。独自データの主な要素は4つ。事実(何が起きたか。閲覧、購入、返品、問い合わせなど)、文脈(何のためか。用途、予算、困り事、利用条件など)、判断(なぜその提案や対応を選んだか。代替提案、例外対応など)、結果(その後どうなったか。購入、未購入、返品、再購入など)である。
データ量が多いだけでは、独自データにはならない。この4つが、顧客体験や業務の流れとしてつながっていることが重要だ。例えば、商品名、価格、説明文だけをAIに渡しても、出てくるのは一般的な商品案内です。そこに用途、比較軸、店舗在庫、過去の接客判断、購入後の結果まで加われば、顧客の条件に応じた提案に近づく。